06/01(日) 腎不全記念日 ケー   
 昨夜は自分でトイレに行って、勝手にシェルターに戻っていった。ね、やればできるんです。

 睡眠中のご飯、8g。悪くないけど、もう少しなんとか食べていただきたい。良くなってきたら欲が出てきた。あ、韻を踏んじゃった。体温36.3℃。こちらももう少しなんとか上げていただきたい。

 去年の今日、いっちゃんは慢性腎不全と診断されて入院した。6月1日は腎不全記念日。めでたいのか?いっちゃんは今ここにいる。めでたい!
 あっという間の1年。でも、それまでの19年よりも濃い1年だった。可能な限りそばにいて、いっちゃんのことを最優先した。病気になるまでは、ただ「かわいいかわいい」だけで、真剣にいっちゃんのことを考えたことってなかったかもしれない。それなのに、ずっとそばにいてくれてありがとう。これからも君臨し続けてください。

 3:30pm〜8pm、父の病院へ。いない間の様子。
 5pm、ケー(!)。出たのは栄養チューブだけ。茶色の液が出ないだけよかった。苦しそうだったかは怖くて聞けなかった。ご飯は全然、食べていない。

 帰りに買ってきたひらめのお刺身を口元に持っていったら、ぐわしと食いついた。そうよ、その調子!でも半切れも食べずに終了。4gだけ。

 おもらしが続いて天気が悪いと、シェルターの中に敷くバスタオルが足りなくなる。王様にふさわしい、ふかふかで大判の高級バスタオルはけっこうなお値段。寝たきりなので、せめてタオルくらいはいいのを敷いてやりたい。しかしあと2枚は追加したいので、そうすると1万円かかるなあ・・。
 病院に行く前、生地屋さんに寄ってパイルのキルティング生地を買った。なかなかパイルの感触もいいし、綿もしっかり入っててふかふか。これを2重になるように輪っかに縫って、端の処理だけしてシェルターに敷くことにした。前にも同じ生地を買ったけど、1枚だけだと若干薄くて、下のペットシーツのかさかさが分かってしまう。それじゃ王様にふさわしくないので、下に薄手のバスタオルを敷いた上に使ってた。今回はちゃんと2重にできる分量を買ったぞ!悪くないでしょ?でも高級バスタオルじゃなくてごめんな。
 
 お腹を触るとおしっこぱんぱん。トイレに入れて膀胱なでなで、しゃーっと出た。おとといあたりから、トイレに入れても自分で立てない。支えていないと、ぐにゃんと崩れてしまう。そのわりにはよたよたながらも自分で入ったときは、なんとか自力でやっている。でもお尻が持ち上がってなくて、ほとんど箱座り。はっ、何日か前、何回もトイレに入っては箱座りしていたのは、休んでいるんじゃなくておしっこしようとしていたのか?せっかくトイレにたどり着いたのに、「いっちゃ〜ん、そこでおくつろぎになってはだめ〜」と猫なで声でシェルターに戻されていたのか?そのあげくおもらし・・。またもや大きなお世話やっちゃってたらしい。

 トイレはずっとそんな調子。ご飯はお刺身以降、食べない。今日の食事量、12g・・。明日ね、お願い!

06/02(月) うんこちゃん ケー3回 おもらし 
 6am、私が布団に入って1時間後、シェルターの奥から「けっけっ」と聞こえた。抱き上げたらケー3回。どれも空ゲロ。苦しそう度数・中。

 7am、トイレに歩いて入った。自分で立っているので手を出さず、おしっこが終わるのを待っていたけど、あれ?中途半端で分かりにくいけどこの姿勢は・・?お尻の下を覗き込んだら、カーテンを引いた薄暗い室内でも分かる、うんこちゃんが!出てきてる!自分でトイレでふんばる力があったなんてと2秒間感動。その間、5mmほど頭を出しているうんこちゃんは動かず。感動している場合ではなかった。つかんで引っ張ったけど、切れちゃった。すぐ次が出てきたけど、これも引っ張ったらポロリと崩れてご本尊が出ない。肛門がぽんぽんに盛り上がってて、もう猶予ない感じ。このまま絞れば出てきそうだけど、何しろ暗くてよく見えない。どうしようどうしよう。急いでカーテンを開けて、穴から頭が見えたままの状態(外には出ていない)でいっちゃんをソファに横に寝かせた。ゴールドフィンガーくりくりは寝ている。私がやるしかない。
 大急ぎで搾り出し。あ〜、硬くてだめ。綿棒でほじほじ。少し出た。人差し指にコンドームをかぶせてオリーブオイルたっぷり塗って、ほじほじ。少し出た。
 ふんばるのをやめたらお腹マッサージ。えっ、こんなに長い塊が・・・?ご本尊サイズが4〜5個くっつきあい、、長さ15cmくらいになってる。スケジュール的には今夜出そうと思っていたけど、なんでこんなに?おとといやさきおととい食べていたからだよっ。気がつくのが遅い。うんこちゃんぱんぱんで昨日は食欲がなかったのかも。絶対出さなきゃ!そしたら今日は食べるかも。
 ふんばってもらうたびに綿棒、コンドームと繰り返し、最後は綿棒にうまく引っかかってくれたので、ごそっごそっとまとめてかき出した。ほぼ全部出せた。所要時間1時間、ケーなし、血便なし。あんなにたくさん頑張ったのに、ケーがなかったのは奇跡。。猫神様、ありがとう。

 9am、ちょうどうんこちゃん掘りが終わった頃、くりくりが起きて仕事に行った。チューブべろんちょしてから私といっちゃんはまた寝た。

 10am、トイレでおしっこ。自分で行けて偉いね。

 11:30am、くりくり帰宅。いっちゃんも私も起きた。10分後、チューブべろんちょしてから王様と家来2人、また寝る。

 1pm、またいっちゃんの「けっけっ」で起きた。ケー3回。2回目だけ栄養チューブを吐いて、あとは空ゲロ。苦しそう度数・大。なんでなの?うんこちゃん出したのに、まだ気持ち悪いの?どうしよう。寝たのか寝てないのか分からない感じだけど、目が冴えてしまい起きた。いっちゃんもろくに寝てないってことだ。少しはだるいのや気持ち悪いのが楽な気がするから、ぐっすり眠ってほしい。

 1:30pm、残っていた昨日のヒラメのお刺身を煮た。完全に無視されたが、2pm、自ら王様ご膳に突進。がうっがうっといい勢いで、猫缶とヒラメを食べた。心臓がどきどきした。「食べろ〜食べろ〜」と血管切れそうになるくらい力を入れて頭の中で念じた。昨日の夜、ほんのちょっとヒラメのお刺身を食べて以来のご飯。
 1回食べるのを止めても、またちょっとしたら食べたり、気分が良くなってきたみたい。

 3pm、トイレをお風呂場で洗い部屋に戻ってきたら、いっちゃんが床で箱座りしてて、下半身はおしっこの水溜りに浸かっていた。・・・いくらなんでもそれって・・。シェルターの中でおもらししても、タオルとペットシーツが水分を吸い取るけど、フローリングの床はそのまま水溜りになってしまう。その中にそのまま浸かってるなんて、けっこうショックな光景だった。ソファを降りて3歩くらいの距離だった(いっちゃんの脚で)。その程度歩ける力はある。でもおしっこに浸かったまんま。元気なのか元気じゃないのか。私が部屋にいなかったのは5分くらいだったけど、その間、トイレを捜してうろうろしたのかな。でも見つからなくて、床でおしっこしちゃって、疲れて動けなかった?なんだか妙に悲しい。

 4pm、くりくりが起きたので、いっちゃんを見ててもらい、獣医さんと猫缶を買いに行った。5pmからまた仕事に出るというから、1時間以内に戻らなきゃ。

 ゆうべ使おうとしたシリンジがいつものより小さく、50mlのはずが30mlのだった。普通は封を開ける前に気がつくと思うのに、出して針をつないで、液を吸い始めてからやっと気がついた。50mlのでやり直したが、取り替えてもらわないと1本足りなくなる。病院側のミスだから堂々と「替えて下さい」って言えるのに、まったく気がつかないで開封したうえに液まで吸っちゃったから「すいませ〜ん」な感じ。なぜ気付かない?自分でも驚く。

 病院が込んでいたので40分待った。あと20分で買い物して帰らねば!今王様は、1種類の猫缶しか食べない。モンプチ子猫用・白身魚とまぐろ。それがあと1缶しかない。1回半分を1日3回取り替えるから、買っておかないと今夜からもう食糧難。しかもこれは近所のペットショップでは売っていなくて、ちょっと遠くのディスカウントショップまで行かないと買えない。自転車すっ飛ばしてお店にたどり着いた私の目に映ったものは、ベルリンの壁かと思うような、閉まりきった頑丈なシャッターだった・・。追い討ちをかけるように「月曜定休」の文字が・・あああああ!ここであきらめてしまっては食糧難。それはいかん。なんとしてでも避ける!再び自転車すっ飛ばして、もう1件のディスカウントショップへ。そこは、家から出てちょっと行ったら、今来たお店と正反対の方向・同じくらいの距離にある。もう、目を吊り上げて走る。汗びっしょりだけど、ブラジャーしてこなかったので上着が脱げない。誰も私のことなんて見ないだろうから脱いじゃおうかと思ったけど、汗だくで目を吊り上げて、よれよれのTシャツ+ノーブラで狂ったように自転車こいでる女なんて、もし誰か見ちゃったら、その人があまりに気の毒なので我慢した。
 やっと着いたもう1件のお店で、4個ゲット。こっちはいつも数個しか置いてないから最初に来なかったんだよね。でも買えてよかった・・って、いかん、安心してる場合じゃない。また化け物じみた形相、勢いで帰宅。5時ちょっと過ぎてたけど、くりくりは待っていてくれた。王様のおかげさまで、いい運動になりました。

 6pm、すくっと立ち上がる。おもらしでした。

 8pm、なぜか王様ご膳を乗り越えようとして、ご飯のお皿に前脚を突っ込む。これはたまにやる。
 
 何の用事か、何度も立ち上がってよたよた動こうとする。でもあまり動けなくて、回りの状況など一切確かめずに、ごろどすんと横になる。危ない。3方はクッションで固めてあるけど、王様ご膳はどうしようもない。そこに突っ込む。上に倒れこむ。目が離せない。

 10pm、トイレでおしっこ。

 11pm、ケー。3回のうち2回目だけ栄養チューブ。あとは空ゲロ。苦しそう度数・大。

 体温、36.7度。ご飯、12g。 大丈夫か、王様!?

06/03(火) うんこちゃん 栄養チューブ18 
 昨夜、寝る直前の目薬のとき、いっちゃんの左目のふちが少し腫れていた。腫れる→眼底出血がパターンなので、心配になって何度も見直したが、やはり腫れている。この前出血した右目もまだ良くなっていないのに、左目だって色が戻ってからそんなに経っていないのにまた?もう止めて欲しい。顔がどんどん変わってしまって辛い。

 寝ている間、おしっこ1回。自分でトイレに行けたが、お尻が外にはみ出していた。私が気がつくのが遅くて、おしっこ半分、外にしちゃった。いいよね、そんなの。トイレに行けただけですごいよ。
 ご飯は2g食べた。・・・本当は舐めただけで、食べていないと思う。水分が飛んで2g減っただけ。

 朝、起きてすぐ目のチェック。腫れは治まっていた。良かったよ〜。すごくうれしい。

 今日もご飯食べない。何度も立ち上がったりはする。それからばったんと倒れこむ。昼間は2回、トイレにいけた。

 栄養チューブの最後の1本を開封した。これを切らしたら、猫缶切らすより大変。いっちゃん、お留守番できる?でも獣医さんに行かなきゃ。昨日行ったとき買えばよかったのに、気がつかなかった。

 夕方、トイレでおしっこした直後、獣医さんに出かけた。おしっこした直後だったら、トイレに行こうとしてご飯に突っ込む可能性が少しは減る。大急ぎで行ったのに、栄養チューブはなかった。取り寄せてもらうので、金曜日の午後2時以降になる。なんとかぎりぎり間に合うかな。間に合ってくれ。栄養チューブで生きてるようなものだから、ひやひやする。お刺身のいいのがなかったので、つみれと鶏肉を買って帰った。

 20分ほどで帰宅。王様、逆さまになっていた・・・。落ちても痛くないように、ソファから床にかけて大きいクッションを敷いてある。確かに痛くはないが、上半身が床のクッションで下半身がソファに乗っかってたら、頭に血が上って気持ち悪くなるよ。それじゃなくてもケーが多いんだから。頭から半分滑り落ちたところで止まったって感じで、逆さまになったままじーっとしてる。どうしたもんか。

 つみれを口元に持っていく。鼻息が荒くなって、しきりにくんかくんかした・・だけ。食べない。鶏肉を茹でたのも同じ。

 いっちゃんは喉をごろごろ鳴らせない。鳴らさないだけ?どちらにしても20年間で1回も聞いたことがない。そのかわり気持ちいいと鼻息が荒くなって「ずびーずびー」といびきみたいな音がする。つみれと鶏肉ですごく久しぶりに「ずびー」を聞いた。頭を撫でたらやっぱり「ずびー」としてくれた。うれしかった。いつまででも撫でてやるよ。むりやり添い寝してずっと撫でていたら、いっちゃん、うとうとと眠ってしまった。目をつぶっていると、左目の虹彩がいびつになっちゃったのも、右目が赤くて白い膜が張ったようになっているのも見えなくて、前のいっちゃんの面影が出てくる。その顔をうっとり眺めているうちに自分も眠ってしまった。1時間近く一緒にうとうと。いっちゃんが起きて動いたので私も起きた。

 明るいうちはトイレに行っていたけど、夜になったらずっとおもらし。それでもしちゃった後起き上がるからいい。

 10pm、くりくりが帰ってきたら、いっちゃんが「あ〜ん」と鳴いた。「お帰り」の歓迎か「遅いよ」のお叱りか。私とくりくりで「いち」、「いっちゃん」と交互にと呼ぶ。「あ〜ん」と全部で3回、返事してくれた。3日前にも突然「うにゃうにゃうにゃ」と1瞬おしゃべりをした。2日前には1声だけ鳴いた。声が聞けるのは幸せ。これで食べてくれたらもっと幸せ。

 昨日の朝出したばかりだけど、お腹を触るとうんこちゃんがころころとある。出したほうがいいかどうか微妙な量。くりくりにもお腹を触ってもらって、どうしようかと聞いたら、うんこちゃんを確認するなり「出しとくか」と言ってさっさとマッサージを始め、あっという間にごそごそっと親指1本分、かき出してしまった。ケーなし血便なし。量が少なかったせいもあるけど、その間わずか10分。さすが神が光臨したうんこ師、ゴールドフィンガー、巧みの技。恐れ入りました。私はいっちゃんの手を握っていただけ。

 11pm、うんこちゃんから30分後、くりくりがごみ箱を抱え込み、自分で髪の毛をざっくざっくと切りながら横目でいっちゃんを見てくれていた。私は台所を片付けて、部屋に戻っていっちゃんを見るなり、とってもとっても驚いた。前庭で横になってる王様のお尻のところに、長さ10cmくらいの1本ぐそがあったのだった。幻覚か?王様のうんこちゃんの心配ばかりしているから、とうとうこんなものが見えるようになった。しかしいくらじいっと見つめても一向に消えない。ティッシュで取ってみた・・・幻覚じゃなくて現実だった。どこに隠してたんだ、こんなもん!?しかもしかも、表面に薄く血が付いているじゃないか〜!!大量じゃないけど、はっきり血と分かるくらいは付いている。ずっと血便していなかったのになあ。本当の「Shit !」だよ。
 くりくりは横目で見ていたけど、いっちゃんはなんとなくもぞっと前に動いただけで、ソファから落ちそうでもなかったし、まさかこんなことになってるとは思わなかったそうだ。
 うんこちゃんと添い寝していた王様は楽しい光景ではなかったけれど、自力で排便できたのは元気ってことだ。いいほうに考えよう。

 排便後、まぐろのお刺身を4g食べた。でもそれだけ。昼間も全然食べなかった。

 夜から、息を強くふっと吹く呼吸をするようになった。1分に1回くらいやってて心配したが、今は治まっている。呼吸困難になる前にやってた「素早い深呼吸」とは違うので大丈夫だとは思うけど、心配。

 鼻の頭のがびがびをどうしても拭かせてくれないので、冗談で舌でべろんとやったら、それはいやがらなかった。げっ、そうなんですか、王様?仕方がない。べろんべろんと舐めてきれいにしてやった。イソジンでうがいした。

 今日は少し水あめ涎が出ていた。あんまりいいことじゃない。

 ご飯、6g。お腹、今度こそお腹はすっきりしたはず。明日に期待。
 今日はケーがなくてよかった。
 ニュー栄養チューブ18本目

今、頭を撫でたら、前脚で私の手に必死にしがみついてきた。「ふっ」という息をまたしている。顔や手がピクンと動く。落ち着かない感じ。心配。怖い。痙攣を起こしませんように。神様、お願いします。

06/04(水) ご飯2g ずっとおもらし 
 私が寝ているときも、王様はしょっちゅう動き回る。よたよたしながら立ち上がり、歩こうとしてばったんと倒れたり、よろけて転んだりする。1回倒れたり転んだりすると、そのままの姿勢でじっーとしてる。頭が下になってても、手足が不自然な形になってても、手をお水やご飯のお皿に突っ込んでしまっても、そのまんま。だからいっちゃんが動く気配がすると私も起きて見張ってる。だけど昨夜はだまされた。王様にいっぽん取られた。

 「がたん」という音で起きたけど、王様シェルターを見たら、ちゃんと中で寝ていた。あれ?幻聴かな?シェルターの中で向きを変えただけ?まあいいや、寝よう。3分後か5分後か、また「がたん」。もう一回、シェルターを確認。ちゃんと中にい・・いない!毛布がいっちゃんの身体の形にふくらんでいるけど、中身がない!どこ!?
 ちゃぶ台の下座っていた。シェルターの周りはクッションで壁を作ってあるんだけど、一部が決壊して少し隙間ができていた。そこからうまいこと抜け出したみたいだ。「がたん」はちゃぶ台の脚にぶつかった音のようだ。
 王様。布団の下に詰め物してふくらませて、親に見つからないようにこっそり窓から抜け出して夜遊びに行くティーンネイジャーみたいなまねは止めてください。心臓に悪いです。
 
 心配してたが発作はなかった。本当によかった。ありがたい。

 睡眠中のご飯、0g。トイレでおしっこ1回

 空が明るいうちは、やたらと動こうとする。暗くなるとじっとしている。光は分からないから、体内時計が何か命令しているの?

 今日は私が起きているときは全部おもらし。寝ていると自分でトイレに行く(手伝うけど)。前は、私が起きているときは絶対に、お腹すきすぎてケーしても自分からご飯を食べなかった。なぜか手のひらや指からしか食べない。ところが私が寝ていたり外出しているときには、ちゃんとお皿から食べていた。これは甘ったれているのかな。ちっちゃい人間の子供といっしょだね。うれしいけど心が痛い。薬とか病院とか、いっちゃんがいやがることばっかりしているのに信頼してくれて、それなのに元気にしてやれない。つい、ごめんねと言ってしまう。

 「ふっ」と強く鼻から息を吐くのが、ずっと続いているので病院に電話。他に苦しそうな様子がないのなら様子を見てくださいとのこと。もし鼻から何か分泌物が出てきたら、すぐに電話をくださいと言われたけど・・・鼻から分泌物・・・こわいよ〜。
 ご飯を食べないことも言ったけど、やっぱり「様子を見てください」だった。もうそれしかないのかな。

 夜に真鯛のお刺身を2gだけ食べた。栄養チューブの舐めかたも元気がないし、量も減ってきた。明日ね、いっちゃん。明日は食べようね。
 体温37.2度。

06/05(木) ケー ご飯14g   
 いっちゃんがうろうろうろ・・・。しょっちゅうシェルターから出ようとするので、私もなかなか眠れない。この際だから布団に連れ込んで添い寝。なぜか大人しく寝てる。全然動かない。な〜んだ、そうか。私のところに来たくてうろうろしてたのね。かわいいねえ、よしよし。思いっきり都合よく解釈して1人でにやにや。でも一緒に寝たら寝たで、やっぱり様子が気になって眠れないんだけどね。

 睡眠中のご飯、0g。

 12:30pm〜7pm、仕事。帰る途中で電話して、くりくりにディスカウントショップまでモンプチ子猫の買出しに行ってもらった。私が家に着くまで、いっちゃん、7〜8分くらいのお留守番。何事もなかった。よかった。お店が7時に終わっちゃうのかと思って急いだからだが、8時くらいまでやっていそうだった。

 いないあいだの様子。体温36.2℃。ご飯は何度かお皿に顔を突っ込んだ。4g減っていた。おしっこはしていない。

 帰宅後すぐに栄養チューブ。おお、やる気が感じられるべろんちょだ。私の指をかじる勢いで5ぺろもした。とってもいい感じ。
 
 次は真鯛のお刺身だ。口元に持っていこうとしたら、なんだか様子が怪しい。口をくちゃくちゃさせている。・・ケーしちゃった。栄養チューブが出た。苦しそう度数・大。でも1回ですんだ。全然よくないけどよかった。

 身体の毛のところどころが固まってドレッドになってた。シェルターのバスタオルに栄養チューブが付いて、その上に寝てたらしい。身体を拭くのはいやがらないので、楽勝できれいにした。シェルターも掃除。おもらし発見。くりくり、気が付かなかったの?

 鼻の下が猫缶やら栄養チューブやらで汚れて、苔むしたみたい。いくらご長寿だって亀じゃないんだから・・。鼻の頭は私がべろべろ舐めてやったが、鼻の下は毛が生えているので無理、取れない。私の舌には残念ながら、ざらざらがない。いっちゃんが激しく嫌がるから、ストレスを増やしたくなくて、いつも中途半端に拭いていたけど、もうこの汚さは身体に毒だと思われる。食べかすが発酵して未知の生物が湧いてきそう。
 くりくりが押さえつけて私が拭くという連携プレー開始。デリケートな場所なので、痛くないようにお湯+コットンで拭いて、最後にしつこくこびりついていたのをお湯綿棒で取った。ふんわか、きれいになった。前のいっちゃんの顔に少しだけ戻ってうれしかった。
 王様はとってもうれしくなさそうで、何度も前脚で私の手を押さえて「やめれ」してた。その度にくりくりに押さえ込まれちゃうから気の毒だったけど、仕草がかわいくて笑った。威厳なかったなあ。
 
 きれいになったところで真鯛のお刺身。一気に6g食べた。よかったよかった。

 そのあともお刺身を少しずつ何回か食べて、特に変わったことはなし。

 鼻息「ふっ」はまだやっているけど苦しそうじゃない。鼻くそでも詰まっているのか?自然の状態の猫とか犬とかが(他の動物も)、鼻くそ詰まったらどうやって取るの?風邪引いて洟水が詰まったりとか、それで窒息しちゃうことってないのかな。

 今、水を飲ませていて気が付いた。身体を支えてやって飲ませるのだけど、距離が測れなくて鼻まで水に突っ込んでしまい、「ぶっ」となることがある。「ふっ」はそのせいかな?鼻腔内のどっかに水が入ってるとか?

06/06(金) 通院 2.35kg ご飯24g お水よく飲む 
 昨日の夜から、お水が自分で飲めなくなった。今まではよろよろだけど自分で立ち上がり、失敗して崩れても、起こしてやれば自分の脚でなんとか立ってお水を飲んだ。それが身体を支えてやらないと、立っていられない。そっと手を離そうとすると、そのままぐにゃばたんと崩れる。お水の器を口元に持っていっても気がつかない。下あごがべったり水に浸かっても気がつかないで、じーっとしている。シンクロの訓練ですか?猫はオリンピックに出られませんから無駄です、王様。新しい美顔術ですか?顔が汚れ気味なので、それはいいかも。でもお水の器で溺死はやめてね。
 鼻の穴まで水に浸って初めて気がついて、びっちゃびっちゃ飲む。飲むんだ後、毎回タオルで顔を拭く。あきらめたのか、面倒くさいのか、ゆるく抵抗するのみ。

 何の用事かやたら立ち上がったり、どっか行こうとすることはしょっちゅうだ。今までは、そういう時にご飯やお水を口元に持っていっても「ちがーんだよ」って態度で、顔でお皿を押しやってた。昨日の夜からは、口元にお水が来るとその度に飲む。すぐやめちゃうんだけど、とりあえずは少しでもびっちゃびっちゃする。なんか変。飲みたいのか飲みたくないのか分からなくて、お水に気がつくと自動的に飲んじゃうみたいな。変でもいいや、飲まないより飲んだほうがいい。しょっちゅう飲ませる。

 王様ご膳はあげ底してあるが、もう少し高くしたほうが飲み食いしやすいかも。そのほうがご膳を踏み越えて向こうに行こうとしたり(無謀&意味不明)、ご飯のお皿に手を突っ込むことが防げそう。しかし王様は、ここ2〜3日で新しい飲み食い技を開発している。立ち上がろうとする→崩れる→身体の右側を王様ご膳にもたせかけて横ずわりする(崩れたはずみでこうなる)→首だけぐにゅんと曲げて、ご膳のお皿から自力で飲み食いする、というもの。高くしてしまうとこれができなくなる。どうしようかな。上げるべきか上げざるべきか。あげ底用の箱をかましてみたり、取ってみたり。空はすっかり明るくなって、ベランダを鳩がぼーぼー鳴きながら歩き回る時間になった。もういいや。寝てから考えよう。

 睡眠中も、何度も立ち上がろうとしては崩れる。その度に身体を支えてたり、崩れて寝ている口元にお皿を運んだりして、ここぞとばかりにお水を飲んでいただく。王様の動きは、だいたい30分間、5分おきに立ち上がろうとする。1時間じっと横になる。30分間、5分おきに・・とループする。

 そんなこんなの睡眠中、ご飯6g、お水いっぱい、おしっこトイレで1回。これは行き帰りとも自分で達成。カバーと本体の間の溝にしてあったので、起きるなり洗ったが、すごい。さすが王様だ。

 ご飯もお水も、口元まで運んでやるとよく食べる。ついこの前までは、「今いらねい。そこ置いとけ、ぎゃおす」と自分の食べたい時にしか食べなかった。
 お刺身を小さくちぎって口元に運ぶ。昨日の食べ方は「あむあむっ」だったが、今日のは「がうっがうっ」とパワーアップしてる。
 モンプチ子猫のお皿にも、1回、自分から顔を突っ込んだ。

 今日はくりくりの仕事が夕方からなので、昼間買い物に行けた。お刺身用のアジを尾頭付きで買ってきて、なんとか3枚におろした。掲示板に昨日サエコポンがアジの焼いたのと書いてくれて、元気だった頃たまにだったけど、あげるとよく食べたのを思い出した。いっちゃんの腎不全が分かってから、焼き魚自体がうちの食卓から消えていたので思いつかなかった。茹でたほうが塩分が抜けると思って、茹でてばかりだった。

 4pm、通院.。体重2.35kg。先週より100g減った。この身体から100g・・。考えるのはよそう。
 鼻息「ふっ」は、鼻を触って「乾いてますねえ。分泌物が出てきたら連絡ください」とおとといの電話と同じ、それだけで終わった。もし今日までに「ふっ」が収まっていなかったらレントゲンを撮って何か詰まってないか調べたほうがいいかもしれませんと言われていたのに、何もなし。でも検査しなくていいならそのほうがいい。レントゲンは痛くないし一瞬で終わるだろうけど、いっちゃんは恐がる。

 8pm、アジの焼きたてを、いっちゃんの顔の前でほぐす。あ、反応がある。まだ熱いよ。ふーふーして冷まして口元に持っていく。・・匂いをかぐだけで食べない。
 30分後、自分から王様ご膳のほうに行こうとした。アジの冷めたやつをもう1回、口元へ。がうがうがうっと元気よく、おいしそうに、「食うぞ食うぞ」の勢いで食べた。すごくたくさん食べたわけではないが、あの勢いは「生きているっておいしい」の感じ。よかったよかった。
 すごいやる気で食べたのは最初の1回だけだったけど、そのあともちょびちょびと何回も食べた。真鯛のお刺身も食べている。今日はご飯、いい感じ。お水もよく飲む。昨日から復活してきて、今日はますます元気になっている。

 夜、くりくりが「温めなきゃ」と言いつつ王様を全身マッサージ。
 そのあと11:50pm、皮下輸液。今日はくりくりが針刺しを2回失敗(空気が入ってきてしまった)。針を取り替えて私がやった3回目に成功。最近はずっと、くりくりも私も注射の失敗はしていなかったのにな。3回も刺してごめんね。液を入れている最中から、針をさしたあたりの皮膚がうっすら赤くなってきた。小さい範囲だけど、なんでなの?やだなあ。

 おしっこは全部おもらしだが、しちゃうと起き上がって位置を変える。
 体温36.7℃

06/07(土) 最後の闘い 
 0:10am、うんこちゃん、そんなに溜まっていないけど、軟らかいうちに出しておいたほうがいいかもと、くりくりがお腹マッサージ開始。輸液したあとマッサージするのは初めて。身体が重くて、ふんばるのがたいへんかもと、私は気が進まなかった。くりくりは、寝てふんばるから関係ないと言う。そうだね、今日出せればいっちゃん(のお尻の穴)も楽だしね。揉み始めてすぐくりくりが「軟らかくて掴みどころがない」と言った。「じゃあ明日でいいんじゃない?」と私。
 くりくりは「うん」といいつつ続行。3分くらいしてもう一度「無理しないでね。明日にしない?」と私が言いくりくりも同意したが、私が肛門を触ったら膨らんできていた。あ、本当だと、くりくりはマッサージを続行、ちょいちょいと綿棒でかき出したが軟らかすぎて引っかからず、少ししか出せなかった。小指のツメ2個分くらい。下痢ではないけれど、けっこうな軟らかさなので、ふんばれば自力で出せそうと思ったが無理だった。「じゃあやっぱり明日にしようよ。今日はもうやめよう」と私。くりくりも「明日になれば少し固まってるかも」と言いつつ止めたが、いっちゃんがまたふんばったので、もう一度綿棒ちょいちょい。やっぱりうまく出せない。小指のツメ3個分だけ。しかも、しっかり血便だ!表面に血を薄く塗りつけたみたい。取っておいて先生に見せに行こうかと思ったが、明日たくさん出たらそれを見てもらったほうがいいと思い片付けた。
 明日ねとやめた直後、いっちゃんが口をくちゃくちゃさせ始めた。ケーか!?ここのところ、うんこちゃんしても吐かなかったのに。

 数秒間見守ったが、お口くちゃくちゃは収まらない。身体を支えても立ってられそうになかったので、腕に横抱きで頭をトイレの上へ持ってきてケーしていただく。本当は頭が立った状態のほうがいいのだが、横抱きで吐いたことも何回もある。

1回目:空ゲロ。苦しそう度数・中
2回目:栄養チューブを吐いた。苦しそう度数・中
3回目:空ゲロ。両前脚で口を引っ掻く仕草。苦しそう度数・大。

 治まったと思い、いっちゃんの身体を抱いたままトイレからソファまで、40cmほど空中移動。寝せようとしたら、また「けっけっ」と始まった。もう一度抱いたままトイレ上空へ。くりくりが「立たせろ」と言うので、わきの下に手を入れて支え、頭だけ何とかまっすぐにした。身体はぐにゃぐにゃで、ぶら〜んとぶら下がっている。

4回目:濃い黄色い液を吐いた。両前脚で口を引っ掻く仕草。苦しそう度数・大大。

治まった!?まだだ。

5回目:空ゲロ。苦しそう度数・大大大
今までどんなに多くても、続けて5回以上は吐いたことがない。これが最後で治まってくれるかと思いつつ、あまりにも苦しそうなので思わず大声で「いっちゃん!いっちゃん!」と呼びかけた。くりくりが、これまた大声で「騒ぐな!」と怒鳴り、私は声を落とした。

 空ゲロしていたいっちゃんが、今まで聞いたことのない「ひゅううう〜ひぇえええ〜」と苦しそうな、必死に息を吸い込もうとしているような音か声をあげて背中を反らせた。「いち、いち、いち」と大声にならないように呼びかけながら、いっちゃんの身体を抱え込んだ。苦しそう度数・機械振りきり、測定不可能。

 声が止んだ途端、背中を前に戻してまた吐こうとした。6回目だ。もう構ってられない。また大声で「いち!いっちゃん!」と呼びかける。かーっと吐くが、何も出ない。

 次の瞬間、また背中をのけぞらせて「ひゅううう〜ひぇえええ〜」と声をあげる。私は「おかしい。くりくり、これ絶対おかしいよ」と叫び、「いっちゃん、いっちゃん、いっちゃん!」と抱きながら叫んでいた。くりくりも「いち、いち」とずっと呼んでいたのは聞こえていたが、あとは分からない。くりくりのほうを見る余裕がなかった。いっちゃんだけしか見えていなかった。

 苦しそうな声は、長く続いたわけではない。両方とも4〜5秒だったと思う。2回目のそれがやんで、いちの身体が大人しくなった。トイレの上空で抱いていたのを、寝かせようと思ってちょっと動かしたら、くりくりがさっといっちゃんを受け取った。抱いたまま、「いち、いち」と呼びかけている。それを一目見た瞬間、いっちゃんの胸が動いていない感じがした。「クッションに寝かせて」と私が言い、床の大きなクッションに寝かせた。するといっちゃんはまた身体を反らせ、手足をばたばたさせたので、一瞬、ああ、大丈夫だったと思い、また吐くかもと下にペットシーツを敷いた。敷いた途端におしっこを少しだけもらし、黄色い液を少しだけ口から出し、おならをして、動いているというより、もがいている感じだ。でも呼吸で動いているはずの胸の上下運動がない!やっぱりない!そう思ったら、もがくのが止まった。

 くりくりに「心臓、心臓動いているか確かめて!」と頼み、私はいっちゃんの口と鼻に耳をつけた。くりくりが「大丈夫だ。心臓は動いている!」と言い、私は「呼吸していない!」と叫んだ。

 くりくりに「心臓、動かしておいて!先生に電話するから。」と立ち上がりかけたが、まず呼吸をさせなきゃ!いっちゃんの口をこじ開けようとしたが、食いしばってて開かない。「息を入れたいのに口が開かない!」「鼻から入れろ!」「鼻?こんな小さな鼻の穴から入れられるの?」とつぶやきつつ、鼻の穴に口をつけてぷーぷー息を吹き込んだ。2回くらいやったところで、走って電話を取ってきて、むやみにいっちゃんの顔を触りながら先生にメッセージを入れた。「○○です。心臓は動いています。でも呼吸していません。お電話ください」

 くりくりが心臓をマッサージし、私はぷーぷー思い切り息を吹き込んだ。メッセージを入れてから、時間の感覚が麻痺していたのでよく分からないが、たぶん30秒くらいで先生から電話。同じ事を繰り返す。「心臓は動いています。息をしていません!」「口から息を吹き込んでください」「口が開かないんです」「鼻から入れてください」「やってます。でもちゃんと入っているかどうか分かりません」「入っていれば胸が膨らみます」「・・・膨らんでないみたいです。分かりません」「すぐ行きます」

 くりくりは心臓をマッサージし続け、私はぷーぷー思い切り息を吹き込み続けた。何回かくりくりに「胸、膨らんでるっ!?」と聞いた。私はいっちゃんの顔にかじりついていて、頭を上げて自分で確認する余裕がなかった。「膨らんでいる・・ような気がする」息を吹き込んですぐさま頭を上げて見てみた。・・膨らんでいない気がする。何回か「心臓、動いてる!?」とくりくりに聞いた。「大丈夫だ、心臓は大丈夫だ」

 いっちゃんが脚をぴーんと突っ張らせて戻す、という動きした。もがいているみたいだった。少ししてもう1回、脚ぴーんをした。
 4〜5回、口を開けた。その度に自力で呼吸を始めてくれるかと思ったが、だめだった。

 どのくらい心臓マッサージをして、息を吹き込み続けたのか分からない。いっちゃんの反応が何もなくなった。どこも動かない。でも息を入れた直後、また口を開いた。やっと気がついた。鼻から入った空気が口から出ているだけだと。肺に届いていない・・。その途端、私はパニックになり「おいていかないで!いっちゃん!おいていかないで!」と泣きだした。続いてくりくりも「戻って来い!いち!戻って来い!戻って来い!」と泣いた。くりくりに「心臓は?」と聞いた。「動いてない!今まで動いていたのに!」そう言って、必死に胸を揉んだりさすったりしている。それを見て、私は急に、いっちゃんがかわいそうになった。なんだか王様が「もう疲れたから」って言っているような気がして、くりくりに「もうかわいそうだよ」と言ってしまった。くりくりは分からないといった顔で私を見た。「いっちゃん、もうかわいそうだよ」

 ちょうどそのとき玄関のブザーが鳴った。くりくりが走って開けに行く。先生が小走りで入ってきたので、私は場所を開けていっちゃんの背中側に回った。「心臓も動いていません」と私。「いつからですか」「1分前は動いていました」とくりくり。「呼吸は」「先生に電話するほんの少し前までです」と私。

 先生はいっちゃんの上にかがみこみ、顔はケーで汚れていたのに、今まで私が口をつけていた鼻に躊躇なく口をつけて息を吹き込んだ。1回で止めて、そのあと私に「ここ、こういうふうに押しててください」と私に心臓マッサージを指示し、目を照らしたり胸の音を聞いたり。

 それから「心臓に注射しますか」と聞かれた。私は答えられなかった。何のことだか分かっていたのに、かわいそうだという気持ちが残っていて「注射・・?」と小さい声で聞き返し、分かっていないみたいな返答になった。「心臓を動かす注射、してみますか」ともう一度先生。くりくりがすかさず「お願いします」と答えた。ああ、そうだ。なぜためらったんだろう。最後の最後まで、できるだけのサポートをしようと決めていたのに。先生は位置を確認して「このあたり、ここのはず」といいつつ、直接心臓に注射。

 続けていっちゃんを持ち上げてぐるんと身体の向きを変え、頭がまた先生の側に来るようにした。いっちゃんはぶらんぶらんで、振り回されているみたい。まるで詰め物のビーズが半分くらい抜けてしまったぬいぐるみだ。

 いっちゃんの口を開けて、思い切りべろを引っ張り出した。私は、べろってこんなに長いんだと、妙に冷静に驚きながら見ていた。くりくりに上顎を固定しているように指示して、金属の器具を口に中に突っ込みながら、「吐きましたか」と聞いた。「はい。苦しそうでした。」と私。「泡がありますね・・」と先生。
 金属の器具を入れた中に、さらにストローのようなものを入れて息を吹き込んだ。いっちゃんの胸がはっきり大きくふくらみ、ごぼごぼという音がした。

 そのあと今度はくりくりが、心臓マッサージを指示されて、先生は・・どうしていたんだろう。覚えていない。それから先生が心臓マッサージをして、聴診器で胸の音を聞いた。そのあと「残念ですが・・・」の言葉が続いた。

 私は分かっていたのだと思う。注射をしても、先生がそう言うのが分かっていた。だって一瞬でも「もうこのまま逝かせてやろう」と思ってしまったのだから、それがいっちゃんに伝わったんだ。

 先生は道具を片付けながら「急に心不全を起こしたんでしょうね」と言った。片付け終わって「でも頑張りましたよ」と言い「お力になれなくて・・」と続けた。私は「先生がいたから頑張れたんです」と言った。本心だった。先生に不満を持ったこともあったけれど、一生懸命やってくれた。あきらめろみたいなことは一度も言わなかった。「もうだめかもしれません」という内容を、遠まわしに優しい表現で言ったことは何回かあったけれど、最後の最後まで見捨てないでつきあってくれた。ありがとうございました。先生に診ていただけてよかったです。

 帰りかけた先生の背中に突然「腐りませんか?」と声を掛けた。先生は、は?という顔をして振り向いた。「もう暑いし、このままただ置いておいて腐りませんか?」と聞き直した。「一晩くらいなら大丈夫です。今夜は最後のお別れの夜ですし・・」と先生。
 前に、体内にホルマリンを入れて防腐処置をしたという話をネットで読んだことがあったので、そういうことをしなくてもいいのかととっさに聞いてしまった。そうか、一晩は大丈夫なのか・・。明日になったらまた考えよう。

 先生が帰られてちょっとして、あっと思って時計を見た。1amちょっと過ぎてた。この時計は8分進んでいるから今は0:55amくらいのはず。ということは王様があちらに引っ越されたのは・・?時間を確認するのを忘れていた。余裕がなかった。
 逆算しておおよその時間を出した。
 
0:20am ケーし始めた 
0:25am 心臓マッサージ&人工呼吸開始
0:25:30'' 先生に電話
0:33am 先生到着、この1分くらい前に心臓が停止した
0:50am 先生が帰られた

 正確ではないが、心臓停止の時間を「引越し完了時刻」とすれば、0:30〜0:33amくらいの間になると思う。ケーを始めてから先生が来てくれるまで、長い長い時間だったように感じるけれど、ほんの15分足らずだったんだ・・。

 腎不全ではなく、心不全を起こして逝っちゃった。その心不全の原因が「うんこちゃんでケー」だなんて、まったく王様は最後の最後までうんこちゃんと折り合いが悪かったなぁ。ちょっと間抜けで王様らしいなと思おうとしたが、最後の苦しんでた場面が頭から離れなくて笑えない。

       ***** その後 *****
 
 先生が帰られてしばらくは、不思議とそんなに涙も出なかった。しくしくしながらいっちゃんを撫でていたくらい。1時間もしてから突然、「死んじゃったらなんの世話もできなくなる。もうご飯食べない。声も聞けない。そのうち撫でることもできなくなる。この部屋からいっちゃんの身体がなくなる。」ということに気がついた。びっくりして突発的に大泣きした。
 しばらく泣いたら収まって、また泣いて収まって・・をずっと繰り返しながら、いっちゃんを撫でて話しかけて、くりくりといろいろなことを話し、けっこういろいろなことをした。

 くりくりが「俺が今日、うんこ出したからだ。」と言った。私も、今日うんこちゃんを出さなければ・・と思ったけど、絶対口に出しちゃいけないことだ。私は「くりくりのせいじゃないよ。絶対違うよ。うんこちゃんは出すもんだし、今日マッサージしなくても何か別のことでこうなっていたんじゃないかな。きっと今日が『そのとき』に決まっていたんだよ。」と言い、くりくりは泣きながら頷いていたが、本当に同意しているわけじゃない、まだ自分を責めているのがわかる。でもこれは話題にしないほうがいいとお互いわかっているから、頷いてやめにしただけ。くりくりがかわいそうだし、心配だ。そんなこと考えるなといっても、どうしても浮かんでしまうだろう。くりくりにそんな思いをさせて申し訳ないと思う。

 先生が来る前、くりくりが心臓マッサージしていたとき、何度か心臓が止まったそうだ。そのたびに「戻って来い!」と叫んだらまた動いたという。いっちゃん、迷っていたのかな。「呼んでるし・・。もう疲れたんだけどなあ。おまーら、おれがいないとだめなんだよなあ。でもなあ、もうこれが精一杯だよ。一足お先に苦労のないとこに行ってるよ。おまーら、もうちょっと修行して、後から来いよ。待ってるから。じゃな、頑張れよ」

 いっちゃんをきれいにしよう。最後のケーで汚れた顔をお湯で拭く。身体の毛並みを撫でて整える。抜けた毛を取っておこうと思っていたのに、全然抜けない。ゴンゾーで撫でても取れない。今は毛が抜ける時期なのに。毎年今ごろ、ベランダでブラッシングすると霞がかかったようになるくらい毛が飛んだ時期なのに。
真剣に抜け毛でセーター編もうかと思ったこともある。
 仕方がないので「ごめんね、ちょっとちょうだいね」と言って、お腹の毛と背中の毛を少しだけ切らせてもらった。ひげは前に自然に抜けたのを取っておいて3本ある。もうちょっと欲しかったが、ひげの本数も減っていて、これ以上少なくしてしまったら「苦労のない世界」に行ってからかっこ悪いかなと思い、切らないでおいた。

 目が完全に閉じない。両方とも薄く開いたままになってしまう。眠そうな顔だ。べろは口を開けて中にしまったが、やっぱり少しだけはみ出ている。

 いっちゃんの匂いをくんかくんかする。ここ1ヶ月くらいはちょと薬臭いような栄養チューブのような体臭になっていて、それが全然変わっていない。
 2時間くらいしたら不思議なことに、薬っぽいのが消えて、もとのいっちゃんの匂いになった。お日様があたったような、少し埃っぽいような毛皮の匂い。20年近くずっとくんかくんかしてきた、大好きな匂い。疲れてたりいやなことがあっても、いっちゃんの身体に顔をうずめてくんかくんかすると、暖かくてふんわかしてて、日向の匂いがして安心した。心が落ち着いた。いつまでもこの匂いをかいでいたい。

 そういえば、いつどこで火葬しようか・・?庭があれば埋めるんだけど、賃貸マンションでは焼くしかない。PCを立ち上げる気にならなかったが、検索した。いろいろあったが、どこも商売っ気たっぷりな感じで決められずに、明日病院で聞いてみることした。PCの中はいっちゃんだらけだ。見るのが辛いが、やっぱり見たい。いつもいつもかわいいいっちゃん。今もかわいい。今にも顔をこっちに向けそうなのに、動かないなんて不思議。
 日にちも決められなかった。明日私は仕事なので、今日中かあさってのどちらかだ。私は明後日にしたかったが、私は明日仕事に行って気が紛れるけど、いっちゃんとお留守番するくりくりが心配だった。そっちのがきついと思う。

 時間が経つにつれて、ぐにゃぐにゃだったいっちゃんがかちかちになってきた。身体と前脚が硬くなって、頭が固くなって、最後に後脚が空が明るくなってきたころ硬くなった。しっぽはいつまでも柔らかいままだった。硬くなってしまっても、毛皮のすべすべで柔らかい感触は変わらない。撫でて匂いをかぐ。

 7amになって、くりくりが「少し寝る」といってベッドに入った。私はソファで、いっちゃんに触りながらうとうとした。

 9am、くりくりが起きて出かけた。入れ替わりに私がベッドへ。半分意識があるような浅い眠りの中で、ずっといっちゃんの夢を見ていた。10:30am、くりくりが帰ってきて私も起きた。夢の内容を起きてすぐは覚えていたけれど、もう忘れてしまった。

 くりくりは病院へ行って未使用の皮下輸液セットと目薬を返し、清算し、火葬の事を聞いてきてくれた。慈恵院・多摩犬猫霊園と妙法寺・大蔵動物霊園のパンフレットを持って帰ってきた。多摩犬猫霊園は有名らしいと検索で知っていたが、パンフレットに「当院をご利用いただいている有名人」というページが見開きであって、たくさんの「有名人」の名前がずらずらと並んでいた。まるでラーメン屋さんの壁に並んでいる色紙みたい。なんだかいやになって、そのパンフレットはごみ箱に捨てた。大蔵動物霊園のほうが近いし、パンフレットに「商売商売」した感じはない。そっちにしよう。いっちゃんを大事に扱ってくれればどこでもいいんだけどね。だって王様なんだから、最高に丁寧にしてもらわなきゃ。もしいい加減に扱われたら、その場でぶん殴ってやるとくりくりは言った。
 場所を決めたらそれっきり、また泣いたりぼんやりしたりでやっと予約の電話をしたのは、午後遅くなってからだった。あさって、9日の午後1時に迎えに来てくれることになった。
 
 くりくりが病院で「ドライアイスで保存して・・」と言われて、スーパーでもらってきた。ずっと身体を温めることばかり考えてきたので、冷やさなきゃならないのが変な感じだ。
 ドライアイスだけじゃ足りないので、アイスノンも入れた。

 待合室にいるとき奥から猫の声が聞こえてきて、いたたまれなくなって外を見たそうだ。そうしたら白黒の猫が横切っていって、よけい涙が出たらしい。スーパーでも泣きながら「ドライアイスください」と頼んだので、変な人だったよ、俺と言っていた。くりくりは変な人じゃないよ、優しくていい人だよ。

 ぎゃおすキングダムの掲示板に、王様が「苦労のない世界」に引越したことだけ書いた。

 お寺さんで「写真を持ってきてください」と言われたので、どれにしようか選んだ。何枚か焼き増しして、大きく引き伸ばししてもらうことにした。

 3pm、私だけ写真屋さんへ。何ヶ月も自転車で全力疾走していたので、くせになっている。ゆっくり走ったのはいっちゃんを病院へ連れて行くときだけだった。そんなことを思ったら自転車に乗る気がしなくて、てくてく歩いていった。予備のアイスノンとサンドイッチを買った。歩きながら無意識に猫の姿を捜しているのに気がつく。いっちゃんが帰ってくるかもしれないと思ったようだった。
 
 くりくりは何も食べたくなさそうだったが、私はお腹がすいていた。でも小さいのを一切れ食べただけで、いらなくなった。くりくりは逆に、食べ始めたら「俺、腹減ってたみたいだ」と気がついて、けっこう食べられた。

 食べてくりくりは寝た。私は4pmに焼き増しの写真を取りに。引き伸ばしのほうは11日までできない。帰りに病院へ寄って、未開封の栄養チューブを返却した。昨日のちょうど同じ時間に、4本買ったばかりだった。前回5本買ったら次に日から体調が悪くなった。いっぺんに5本買うのは縁起が悪いと2本づつにしていたが、すぐなくなるので昨日は4本にした。4本はもっと縁起が悪かった。6本にすればよかった。

 待合室にいたら、おばさんが段ボール箱に入った子猫を連れてきた。1週間前に親に捨てられたのを保護したという。ミルクもうまく飲まないし、目も開かない。先生に診てもらって、生きられるようだったら世話をして、もう少し大きくしてから里親を捜すと言っていた。箱の中からにーにー声が聞こえる。思わず「見せていただけませんか」と頼んでしまった。もしかして茶白とらだったら・・と思ってしまった。いっちゃんが新しい身体を手に入れて戻ってきたのかと。箱を覗くとき心臓がどきどきして手が震えた。
 ・・違った。黒と濃いグレーの子猫だった・・。かわいいけど違う。冷静に考えれば、またいっちゃんが同じ色の毛皮で帰ってくるとは限らない。それに長い間頑張って、やっとゆっくりのんびりしたばかりだもんね。まだ早いよね。

 診察室で先生と話をした。いまさら聞いても仕方がないし聞かないほうがいいのかもしれないけれど、どうして呼吸が止まってしまったのか知りたい。
 やはり心不全だそうだ。肺に器具を入れて空気を吹き込んだ時に「ごぼごぼ」という音がしたのは、水が溜まっていたからだ。ずっと鼻息「ふっ」とやっていたのはそのせいだった?咳もしていなかったし、昨日の夕方に診たときは心臓の音も肺の音もしっかりしてきれいだったので関係ないそうだ。じゃあ吐く時に私がしっかり頭を起こしてやらなかったせいで吐しゃ物が肺に入った?それはないでしょうと言われたが、先生の思いやりだったのかもしれない。
 水は肺の奥のほうに少しあっただけで、心不全に付随して急に肺水腫になったのでしょうとのことだった。

 私は、いっちゃんは腎不全だから、いつか静脈点滴も効かなくなって頭を持ち上げることもできないくらい寝たきりになって、飲まず食わずになって1週間か10日か2週間位して、最後にはおしっこも出なくなってあちらに引っ越すのかと思っていた。いっちゃんはまだ、よたよたでも立ち上がろうとしたし、箱座りしたし、昨日はご飯もけっこう食べた。まだ大丈夫だと思っていたと先生に言った。
 そうやって亡くなるこもいるけど、いっちゃんのように急に心不全を起こして亡くなるこも多いそうだ。めずらしいことじゃないと。
 昨夜うんこちゃんでふんばって吐いたのがきっかけでショックを起こして、心不全、肺水腫となったが、いっちゃんはもう全身の機能が落ちていて、ずっと前から、ほんのちょっとしたことで、いつそういうことになってもおかしくない状態だったそうだ。

 やっぱりうんこちゃんだ・・。だって食べたら出さなきゃならない。でもなあ。仕方がないけど悔しい。どうしよう。

 前に先生に「いっちゃんくらいの状態で腎不全がわかって、そのあと5年とか10年とか維持している猫さんているんですか」と聞いたことがあった。うんと初期で発見されればありえるけど、大抵は症状が出てから治療を始めるので、食べなくなってくると飼い主さんが精神的に疲れて参ってしまい、ほとんどの場合は途中で治療を止めてしまうとのことだった。それを思い出し、そうやって飼い主さんがあきらめてしまった腎不全の猫さんを引き取ろうかと思ってしまった。どこからどう見ても、おばかな考えだ。本猫を含め誰にとってもいいことは一個もない。ただ自分が寂しくないように世話をするものが欲しいだけだ。

 ずっと泣き続けているわけではないが、悲しいのと途方にくれているのとで、涙のスイッチがオンになると止まらない。いっちゃんが引っ越したことで開いた穴は、他のものでは埋まらない。時間が経つのを待つしかない。どのくらいかかるのかな・・。

 帰ったらくりくりはもう起きていた。お花屋さんからの電話で起きたそうだ。先生からお花が届くらしい。知らなかったから、たった今病院に行ってたのにお礼を言わなかった。電話するより、もう少し落ち着いてからまたご挨拶に行こう。

 私もその後、1時間くらい寝た。いっちゃんの夢ばかり。

 お花が届いた。白と薄いピンクの花束だ。心遣いがうれしかったが、ちょっとぴんと来なかった。いっちゃんには元気なオレンジとか明るいピンクとかが似合うと思っていたので、仏花だからこういう色合いなんだろうけど、イメージじゃない。シェルターのなかに敷くタオルも、もし出血したら目立つように薄い色にしていたが、きれいなオレンジやピンクのタオルが多かった。白い花束と王様・・。似合わないなあ、ぎゃおす。

 部屋のどこを見てもいっちゃんがいるなあ。
 台所には、寝込むまで何年も王様ご膳があった。猫缶の山、ご飯を量る計り、ご飯記録表とペン、冷蔵庫に保存するご飯の容器に張るシール(日付と中身を書いていた)、かりかりの袋もたくさん、いろいろな栄養剤、お水の箱、お皿や保存用のガラスの容器がたくさん。薬の袋に、強制給餌用のシリンジもたくさんタッパーに入っている。コバルジンの袋を開ける小さいはさみ、カプセル詰めセット。
 冷蔵庫を開ければ、保存してあるご飯にサプリメント類が場所を取っている。
 寝室にはシェルターに敷くタオル類、ペットシーツ、もとトイレがあった場所、買い置きの猫砂もまだたくさんある。病院に行くとき使っていた猫バッグ。予備の王様毛布や枕。
 部屋には王様シェルターに介護用品を並べた棚。今はトイレも置いてある。玉座もある。

 何一つ片付けられない。みんなそのまんま。

 昨夜まで豪華絢爛なぎゃおす王国だったのに、今はただの狭くて古い、2DKのみすぼらしい部屋に見える。王様がいないと、私もくりくりも、どうしていいかわからない。いつもいっちゃんが中心にいて、そこに私もくりくりも引きつけられていたから、今は核がなくなってしまって、まるで無重力状態。ふわふわと落ち着かなくて、意味もなく狭い部屋の中をうろうろして、スイッチオンになってしまい泣く。何をやっているのか自分でもわからない。

 ペットシーツがあと4枚しかなくて、今日買おうと思っていた。昨日病院でもらった薬も今日カプセル詰めするはずだった。昨日届いたアルカリイオン水も今日から試そうと思っていた。
 しょっちゅうお水を飲ませたりご飯のお皿を口元に持っていったり、身体をさすり、話しかけながら撫でて、おしっこやうんこちゃんを手伝い、薬を飲ませて注射をして・・・。もう何もやる必要がない。
 代わりになんでもできる。くりくりと散歩に行ったりご飯を食べに行ったり、友達と会って遊びに行けるし、ゆっくり買い物もできる。撮影が終わるなりすっ飛んで帰ってきてたけど、これからは1杯付き合うこともできる。王様の病院通いが始まってから、欲しくても買わなかった自分の服やPC用品、CDも買えるな。お金を節約しようとして今年は1回休みにした冬物のクリーニングもみんな出せる。
 私もくりくりも、好きなだけ仕事を入れられる。
 ・・・みんなつまらない、どうでもいいことばかり。いらないや。いっちゃんがいたほうがいい。どうしよう。

 11pm、いっちゃんの耳を触ったら少しべたっとしていた。まずい。王様シェルターに寝かせておくのは冷気が逃げて効率が悪い。タオル入れの籠の中に、お風呂のふたに使っている銀色の保温シートを敷いて、そのうえにクッション、ペットシーツに包んだドライアイスを置き、バスタオルで包んだ王様を寝かせた。上からシェルターの掛け布団で蓋をした。いちいち布団をめくらないと顔が見えない。ちょっと寂しいけど、そのほうがいいのかもしれない。
 それでも心配なので、くりくりにもう一度スーパーまでドライアイスをもらいに行ってもらった。昼間行って顔を覚えられたから、もういやだと駄々をこねたが、夜だから従業員、交代しているよ、できるだけたくさんもらってきてと頼んだ。「そんなの何て言えばいいんだ。絶対怪しまれる」と悩むので「王様がお引越しされたので、脱ぎ捨てていった身体をあさって焼いてもらうまで保存したいから、できるだけたくさんいただきたいのですがってほんとの事を言ったほうが怪しくないよ」と言い聞かせたら「うん」と素直に行ってくれた。
 そしてくりくりは、たくさんのドライアイスをゲットして帰ってきた。

 ドライアイスでサンドイッチされ冷やされたいっちゃんは、なんの匂いもしなくなった。冷たくて硬いけど、しっぽは動く。毛皮の手触りも変わらない。

 昨日までは「死ぬな〜、頑張れ」と言われ続け、今日からは「腐るな〜、頑張れ」と言われ・・。王様の苦労はまだ続いている。すまんことです。

 王様シェルターを取っ払ったらどんなに寂しいだろうと思っていたが、代わりにおおげさな籠で場所をふさげたので気が紛れた。

 今朝取り替えたお水なのに、中に猫缶ご飯が落ちていた。いっちゃんはご飯を食べると口の中に非常食をしまっておくので、お水を飲むたびにそれが溶けてお水が汚れる。少しだけど、同じように汚れたお水になっていた。落ちて溶けかけていた猫缶ご飯は、最後まで食べていたモンプチ子猫のようだった。
 いっちゃん、お水、飲んだんだね。出しておいたご飯は真鯛を煮たのと、つみれと味付け海苔だったのに食べなかったのかな。味付け海苔は大好きだったのに1年以上食べていなかった。体調が悪くなってしまってからは、あげてももう食べなかったね。
 きれいなお水に替えて、ご飯も焼きかつおに替えた。

 明日仕事なので、2am近くなってから睡眠薬とビールを飲んで、今までと同じようにいっちゃんのそばに布団を敷いて寝た。

06/08(日) その後・2日目 
 6am、起きてすぐいっちゃんに「おはよう」の挨拶。ドライアイスを足して、ご飯をモンプチ子猫に替えて、お水も新しくした。お水は汚れていなかった。もう飲まなくてもいいのかな。
 
 毎朝いっちゃんにご飯を食べさせ薬を飲ませ、注射をして王様ご膳を新しくしてから出かけていたときは、家を出る2時間前に起きていた。最近は朝の注射はなくなっていたし、薬は昼にくりくりが飲ませていたので、ご飯か栄養チューブを舐めさせて王様ご膳の用意だけだったけど、それでも1時間15分前には起きて、ゆっくりいっちゃんに話しかけて撫でてから出かけていた。今日は1時間前に起きて、それでも時間が余った。かちかち冷んやりのいっちゃんに話しかけて撫でて匂いをかいだらスイッチが入りそうになって、あわてて早めに仕事に出た。

 仕事は辛かった。家にいるより働いたほうが気が紛れて楽かと思ったが、エンドレスでいっちゃんの最後の場面が頭の中を流れてしまい、スイッチオンにならないように押さえているのもしんどかった。
 かちかち冷んやりでもいいから、早くいっちゃんのそばに帰りたかった。

 9:45pm帰宅。お留守番のくりくりが心配だったが大丈夫そうだ。夕方ちびまるこちゃんを見ていたら、1回だけスイッチオンになりそうだったらしい。

 私は逆に、帰っていっちゃんを見るなりダムが決壊してまた大泣き。泣きながら、新しい猫が欲しいとくりくりに訴えた。感情に任せてわめいたが、「新しい猫」には迷惑だろう。王様の代わりとしてもらわれてきて、いちいち王様と比べられる。偉大な王様は日々、美化され続けていく。「新しい猫」がかなうはずがない。「新しい猫」を「王様とは違う猫」として受け入れられる自信がないうちはやめておこう。不思議。いっちゃんがこっちにいる時は、いっちゃんが旅立ってしまったら、もう動物は飼わない、飼えないと思っていた。本当にそうなってしまったら、こんなに考えが変わるんだ。今は悲しくて錯乱状態なので「新しい猫」と思うだけかな。

 昨夜もらってきたドライアイスがもうほとんどなくて、アイスノンが入れてあった。身体が濡れていないか心配になって籠から出したら、ちょっと臭った。まずいまずい。偉大な王様が、たとえ抜け殻でも腐ってしまうのは耐えられない。くりくりは、もう今度こそスーパーに行けないと言うので、私が行った。

 少しでも多くドライアイスをもらおうと一駅先のスーパー2件も行った。商店街の入り口に自転車を止めて歩くと、すぐにディスカウントショップがある。猫缶を片っ端からカゴに入れたな。輸入食品の店では、いっちゃんに良さそうな水がないかとしつこく物色した。
 もう少し行くと雑貨屋だ。いっちゃんのお茶碗を買った。店先のバスタオルについ目が行く。もういらないんだった。
 スーパーでもいっちゃんが食べられそうなものをいろいろ買った。どこを歩いてもいっちゃんの思い出が絡み付いている。半泣き状態で急ぎ足で歩く。これが最後の、いっちゃんのためのお買い物かな。

 1件目のスーパーはケチで「今回だけですよ」と言いつつ、ほんの少しくれただけ。2件目では「もうほとんど残ってなくて・・」と言いながら、ボックスに残っていたのを全部さらって袋に入れてくれた。1件目より多かった。親切がありがたくてまた涙が出そうになった。
 最後にいつものスーパーで「猫が亡くなって・・」と理由を言ってもらってきた。大きい塊を1個もらえた。

 帰ってさっそくドライアイスを王様の籠に詰め、雨の日に病院に連れて行くために買ったビニールの雨合羽で籠をくるんだ。それでも明日の朝までしか持たないと思う。電話帳で氷屋さんを調べた。なんで今ごろ気がつくんだろう。もう11時だ。昨日の昼間に思いつけばよかったのに、もらうことばかり考えていた。近所に何軒かある氷屋さんはどこも留守電。この際だから新宿やら代々木やらにまでかけたがどこも留守電。日曜日の夜だもんね。
 個人でやっているような小さいところにかけたら、おばさんが出た。最低2kgくらいから売ってくれるらしい。今から行くのは迷惑だろうから、朝8時半からだというので明日早起きして行くかな。
 王様、頼む!あと14〜15時間だから、腐らずにいてくれ!

 お水を替えて、ご飯はモンプチ子猫も焼きかつおも開封せずに置いた。いっちゃんはとっても偉くなったから、開けてなくても大丈夫だろうと勝手に判断させてもらった。

 いつものようにいっちゃんのそばに布団を敷いて、少しでも部屋の中を涼しくしておくため、窓を全て全開で寝た。

06/09(月) お葬式
 くりくりは8amに起きて氷屋さんでドライアイスを買ってきてくれた。くりくりが出て行って帰ってきたのは知っていたが、私は起きられなかった。
 
 お昼の12時近くに起きた。めそめそ泣きつつ、背中としっぽの毛をまた少し切らせてもらう。

 お寺さんに持っていく物を用意した。
 お棺に入れるもの。
 私といっちゃんが写っている写真2枚、くりくりといっちゃんが写っている写真1枚、くりくりだけのを1枚。
 私とくりくりの髪の毛。
 いっちゃんのお気に入りの太陽柄のショール。王様シェルターの中には敷いてやらなかった。病気になってからは通院に使っていた猫バッグの中に敷いてあったので、いっちゃんにはいやな思い出かもと思ったが、それがあると安心するようなのでやっぱり持たせることにした。シェルターの中に敷いていたバスタオル類はみんな病気になってからのものだから、元気だった頃の愛用品のほうがいい。
 昨夜私が着て寝ていたタンクトップ。私のにおいを忘れないで。
 王様の必需品、私の靴下でつくった枕。
 焼きかつお2袋。元気な頃からずっと好きだった。
 髪の毛をしばるゴム。どんなにおもちゃを買っても、小さいねずみさんや猫じゃらしでさえも恐がって遊ばなかった王様のお気に入りのおもちゃは、髪の毛をしばるゴムだった。私もくりくりも髪が長くていつもゴムがあったが、買っても買っても王様がどこかへやってしまうので、いつも「ゴム〜」と騒いでいた。冷蔵庫の下から埃まみれになったのが、まとめて出てきたりした。
 もうひとつのお気に入り、東京都推奨半透明ごみ袋はやめておいた。

 1時ぴったりに車が来た。いっちゃんをバスタオルごと抱っこして、ドライアイスを載せながらお寺まで行った。

 お経を上げてもらう小部屋で、いっちゃんは大きくてりっぱなお棺に入れられて、お花で飾ってもらった。渡した2枚の写真も額に入って飾られている。そこに一緒に焼いてもらう私たちの髪の毛やら写真やらをいろいろ入れる。

 お経の中で、いっちゃんの名前が何回も出た。申し込み用紙の名前の欄に、なんて書こうか迷った。本名の「ストロベリー・スウィート・エンジェル・プリンセス」か「いっちゃん」か、はたまた「王様」か。名前、いっぱいあるからなあ。結局、病院の診察券と同じ「いちご」と書いた。もし「ストロベリー・スウィート・エンジェル・プリンセス」と書いていたら、お坊さんも困っただろうなあ。「王様」と書いたら、お経の最中に笑っちゃったかも。

 出棺して火葬。もう本当に最後なので、しつこく撫で回す。手足を握る。きれいに安置されている王様の頭を無理矢理よっこらと持ち上げて、ちゅうちゅうちゅばちゅばキスをする。お棺が立派過ぎて深いので、思うように全身にちゅうできない。

 蓋が閉められて窯(?)の中に入ってしまった。もう触れない・・・。またいつか会えるのだろうか。外に出てグレーの曇り空を見上げた。煙は見えない。無煙ロースターだ。残念。煙が空に昇っていくところを見たかった。

 立派な待合室で待つ。お寺の女の人が、いっちゃんをかわいいとか(当たり前です)、20歳なんてすごいですね(30歳までいけると思ってた)と優しく話しかけてくれる。気持ちはありがたいと思う。しかし辛い。家を出てからずっと、ぎりぎりで精神のバランスを保ってるんだから、無闇に刺激すると怪獣うぎゃんになって咆えるよ。「うわ〜ん、いっちゃ〜ん、うぎゃ〜あああわあああっ!」・・ほんと、いつでも変身できる。この施設の厳粛な雰囲気をぶちこわされたくなかったら、放っておいて。

 お骨をお寺さんに預けるかと聞かれた。将来はわからないけど、今はそんな気はない。せめてお骨でもそばに置いておきたいからと断った。

 待っている間、違うこへのお経が聞こえてきた。20歳6ヶ月というのが聞こえた・・。猫さんかな。こういうところで火葬にしてもらう人たちは、ほとんどみんな立ち会い葬だろうな。だって合同葬でお骨も返ってこないなら、わざわざ高いお金をかけてやってもらうことないもんね。区の施設でも同じだもん。ここでの猫さんの立ち会い葬は¥57,750です。
 私は王様を丁寧に扱ってもらって、全てのお骨を返してもらいたかっただけで、お葬式やお焼香、告別式などは望んでいなかった。でもどうしてもやりたくないというほどの理由もないのでやってもらった。こういうのは残された人間の気が済むために必要なのかもしれない。『苦労のない世界』に一足お先に旅立ったほうは、笑っているのかもしれない。

 焼きあがるのに(すごい表現です)40〜50分かかった。その間、待合室に置いてあった猫雑誌を見て、ついサプリメントの良さそうなのをメモしようとした。
 くりくりは絵本を見て泣いていた。私も読んだが、男の子と一緒に大きくなった犬さんが老衰で亡くなる話で、私には悲しい話じゃなくてハッピーなお話に思えた。病院通いや苦しんだりすることなく、ご飯も食べて、いつものように男の子の部屋で「大好きだよ」って言ってもらって眠りにつき、そのまま目が覚めなかった。これ以上の理想はないと思う。いっちゃんもこんなふうに旅立たせてやりたかった。
 ごめんね。痛い、苦しい、恐い、いやをいっぱいさせちゃったよ・・。私がそっちに行くときにも、苦しむかもしれない。そのとき初めて、いっちゃんが本当はどんなに苦しかったか分かるかな。それならそのほうがいい。いっちゃんにまた会えると思えば恐くないよ。

 焼きあがったいっちゃんは、お見事だった。しっぽの一番先の「くきっ」の骨まで、きれいに残っていた。お寺の人が、しっぽの骨は軟骨に近いので、溶けてしまってなかなか見られない、こんなにきれいに全部残っているのは初めて見たと言ってくれた。お世辞でもうれしかった。喉仏も頭蓋骨もみんなきれい。歯も犬歯から奥歯、小さい前歯までみんなあった。右の犬歯の先がいつの間にか少し欠けていたのも、しっかりその形で残っている。歯は全部揃っていると思っていたのに、右の一番奥歯がなかった。私が気がつかないうちに抜けていたのか、焼いた時に落ちたのか。
 お骨は威厳に満ちて美しかった。さすが王様、あっぱれなできばえです。最後の最後まで王様だね。

 骨壷を入れる箱は、紫に金の刺繍、薄い銀に濃い銀の刺繍、薄い金に濃い金の刺繍の3種類あった。いっちゃんのとら柄に似ていたので、金にした。中にお札も入れてもらって、ピンクと白の不織布の風呂敷で包んでくれた。ひとつひとつの動作がみんな優しくて、とても丁寧だった。

 お寺さんの車で30分かけて家まで送ってもらうのが気詰まりで、最寄の駅で降ろしてもらって電車で帰ることにした。私はすごくお腹がすいていて、駅前の喫茶店でコーヒーを飲んでサンドイッチを食べた。お店に入ってすぐ時計を見たら、4時前だった。2時間ちょっとしかお寺さんにいなかったんだ。長く感じた。

 朝からあった肩凝りの頭痛が、喫茶店にいるうちに悪化して辛くなった。ちょっとでも動くとがんがん頭が痛い。いっちゃんも高血圧だったから、こなふうに頭が痛いこと、あったんだろうな。窓ガラスに頭を押し付けたら、路地の先に飲み屋が並んでいて、一番手前に「モンプチ」という看板があった。スナックでモンプチ?何かの符牒か?焼きかつおだけでモンプチを持たせてやらなかったから、王様が抗議してるの?そっちはもっといいもの、いっぱいあると思ったんだよ。

 なんとか帰宅。鎮痛剤を飲んでベッドに倒れこむ。元気で私と一緒に寝ていた頃の、ベッドでのいっちゃんの定位置にお骨を置いて抱いて寝た。1時間後に復活するなりスイッチオンで大泣き。止まらなくなった。意味もなく「どうしようどうしよう」と繰り返す。なにか取り返しのつかないことになった感じ。

 しばらくアバレて、やっと落ち着いて机に座った。久しぶりだ。机に座るとソファのいっちゃんが見えにくいので、いつもちゃぶ台で12インチのノートPCを使っていた。今まではランでつないであるデスクトップPCの電源を入れても、ファイルの交換だけで操作してなかった。初めて大きいモニターでぎゃおすキングダムを見た。字、でかっ!こんなレイアウトになってんだ。12インチのノートで見るのと随分印象が違う。
 机に座っていても、ソファが気になって何度も立ち上がりかける。くりくりが王様ご膳の方にかがみこんだとき「いっちゃん、ご飯?」と聞いてしまった。王様がシェルターから出てくると、すぐさまご飯のお皿のふたを取っていたから。

 メールチェック。暖かいメールを何通かいただいていた。泣き止んだばかりなのにまた泣いた。ぎゃおすキングダムの掲示板を開けた。王様のお引越しにたくさんのレスをいただいていた。もういかん。号泣した。みんな優しい。元気づけられ勇気をもらっているのは私なのに、心のこもった言葉をたくさんたくさんいただいて、どうしていいのかわからない。こんなに感謝しているのに、お礼の言葉も書けない。泣きすぎて思考能力が果てしなくゼロだ。明日ゆっくりご挨拶しよう・・・。
 いっちゃんとくりくりに、いただいたレスの報告。さすが王様、人気絶頂、偉大です、すごいですと、泣きながらくりくりと「王様ばんざ〜い」と何回もやっていた。知らない人が見たら、完全に狂っていると思うだろう。

 いっちゃんが最後に敷いていたタオルは洗わないで取っておく。いざこうなってみると、想像していたのと随分違う。万が一のことになったら、私はさっさといろいろ片付けて、気持ちの切り替えを計るだろうと思っていた。ところが何一つ捨てられない。何もやる気がない。
 掃除なんかしない。お風呂はくりくりが入るから、自分だけ入らないのは気が引けるので何とかシャワーを浴びた。お腹はすくけど食べるのが面倒くさい。せっかくくりくりが作ってくれるのに、何を食べてもおいしくない。
 もしいっちゃんがいなくなったら、この部屋は辛いから引っ越そうかと思ってた。今は引っ越したくない。いっちゃんはここに10年半住んだ。爪とぎして傷を付けた柱もある。思い出だらけだ。一生ここに住もうか。

 いっちゃんが最後までかけていた毛布は匂いがついている。例の薬臭いような栄養チューブのような匂い。密封できるビニール袋に入れたが、顔を突っ込むとビニールのにおいだ・・。やめた。
 籠を置くのに1回片付けた猫こたつをもう一度組み立てて、ソファの王様の場所に戻した。くりくりも「落ち着くなあ」と言った。そうなの、これがないと変なの。その上にお骨を置いて写真を飾った。におい付きの毛布を丁寧に猫こたつの中に安置した。ご本尊扱い・・。時々取り出してくんかくんかする。泣くくせにやる。

 今まではコンビニの小さい袋は、王様のトイレ掃除用にみんな取っておいた。もう使わないのに、くせでつい取っておこうとする。バスタオルは、王様シェルターに敷きやすいように三つ折りにしてしまう。部屋からちょっと音がすると、いっちゃんの様子を見ようと急いで戻ってきてしまう。

 くりくりがまたあの話を持ち出した。「おれがうんこ出したから。おれがやったんだ」と言う。私は「いっちゃんは頑張ったから、もう疲れたんだよ。もう苦労なしになりたくて、出発をくりくりに手伝わせたんじゃないの。もし私にやらせたら後追いされると思って、くりくりが選ばれたんだよ」と言った。くりくりは「そうか。王様の家来だもんな。王様の命令だったら仕方ないな」となぜか納得した。ごめんね。いやなことをくりくりに押し付けたみたいな感じだ。そんな思いをさせてしまってすまない。

 いっちゃんが引越ししたと認識できるまでまだ時間がかかりそうだ。
 今夜はご飯はかりかりを入れた。もともと元気な頃はかりかり派だったもんね。

 追記 カリウム値について 
 ちょっと気になっていることがあるので追記します。

 いっちゃんは血液検査をするといつもカリウム値が低めだったので、静脈点滴や皮下輸液の輸液バッグに、いつもカリウムを足してもらっていました。静脈点滴中は1日おきに血液検査をして注意深く電解質の数値を見張っていましたが、最後の静脈点滴から皮下輸液に切り替えてぴったり3週間、一度も血液検査しないまま、カリウムを足したリンゲル液を毎日皮下輸液していました。

 カリウムは数値が上がり過ぎると、心臓発作を起こします・・・。

 皮下輸液は1日1回、70ml入れていただけなので、発作を起こすほどの過剰摂取はなかったはずだと思おうとしましたが・・・。
 
 血液検査でカリウムが低めといっても、いつも「正常」と「正常より若干低い」の間を行ったりきたりの程度で、ひどく低かったわけではありません。「正常値内」のことも多かったのです。それなのに検査しないまま、3週間もずっとカリウムを添加した輸液をし続けていたのが、どうしても引っかかってしまう。

 静脈点滴中+それが終わってから1週間くらいは、1日に2回くらいしかおしっこをしていなかったのに、そのあとは1日に4〜6回と急に増えました。もともとそのくらいしていたので、元に戻ったなあと思っただけでしたが、輸液の量は増えていないのに、なぜおしっこの回数が増えたのか、もっと慎重になればよかったと思います。もちろん先生には報告しましたが、そんなに気にされてなかったようでした。

 血液検査をしなくていいのかな、と気になってはいたのですが、痛い恐い思いはできるだけさせたくなかったのと、ほんの少しでも血がもったいないという気持ちで、先生のほうから「しましょう」と言われない限りやりたくないと思っていたのです。

 毎回輸液バッグにどのくらいのカリウムが足されていたのか分かりません。今から確かめる気はありませんし、先生はプロなのだから信じようとも思います。
 でも「まさか、もしかして・・・」という気持ちは残ったままです。もっと私が慎重になっていれば・・と思ってしまいます。

 「カリウム不足」は腎不全猫さんに、わりとよくある症状だと思います。これを読んでくださってる方で、いっちゃんと似たような状態の猫さんがいるかもしれないと思い追記しました。
 もし飼い主のあなたが「あれ?ちょっと変かな?」と思ったら、獣医さんが言わなくても、猫さんがかわいそうでも、血液検査はやっぱり必要なのかもしれません。

 専門的な知識がなくても、獣医さんより家族のほうが、猫さんのちょっとした変化をわかっています。家族の目の方が獣医さんの判断より正確な場合もあると思います。

 お役に立つかどうかわかりませんが・・・
 皆様の猫さんが、1分でも1秒でも長く、皆様と一緒に穏やかな優しい時間を過ごされるように心からのお祈りを込めて。


******いただいたメールより******

カッパさんからいただいたメールです。上のカリウムについて「違うかも」と思われて、知らせてくださいました。
私が安易に「カリウム過剰」だの「血液検査をしたほうがいい」だのと書いたことで、心配をさらに増やしてしまう飼い主さんがいてはいかんので、カッパさんに転載の許可をいただきました。
カッパさん、ありがとうございました!

 ***** 本文 *****

最後におしっこの回数が増えたことについて。
多少カリウムもあるのかもしれないけど、やっぱり腎臓の予備能力も関係してると思います。うちも、最後の1日はそうでした。
1~2時間に1回おしっこするんですよ、寝たまま。
なんか腎臓が皮下輸液をキチンと処理しきれなくて、水分が、ただ体を素通りしちゃってるような感じでした。脱水も進んでたのかもしれないけど。
それに皮下輸液そのものも心臓に負担がないわけじゃないから(高齢猫ほど心臓が丈夫だったりもするんだけど)、いろいろなことの総合で心不全だったと思います。
そう考えるとやっぱり、くりくりさんのマッサージは全く関係ないと思いますよ。


王様の慢性腎不全&便秘日記はこれで終わります。
読んでくださった方々、どうもありがとうございました。
今後は「苦労の多い世界」に元気でぎゃおすと君臨中だった頃の王様の様子を
不定期でぼちぼち書いていこうかと思っています。
 悲しいお話はないはずです。
あきれるお話ならたくさんあるでしょう。
読んでやってもよいという物好きな方は、今後もどうぞお付き合いくださいませ。


王様は不滅です
ぎゃおす!