富士千代ちゃん伝説 Page2 written by ひろびろさん |
《《 最後の5日間の記録 》》 私は一度自分のアパートに帰り、着替えや必要な物をかばんにつめ、また戻ってきた。しばらくこっちで暮らそう。富士を見ながら、私は病院で教わった点滴の扱い方や痙攣発作の時の対応方法をまとめて紙にかき、部屋の壁に貼った。 PM6:40 富士ちゃんオシッコ。 静かに寝てるかと思うと、ハッハッハッハッハッ、フガッフガッフガッと息があらくなったりする。数えてみたら、 10秒で15回息をしていた。 PM10:30 3人交代で富士をみていたが父がそろそろ寝る時間なので交代。父は最近9:00〜10:00に寝て朝4:00に目が覚めるらしいので、朝5:00からみてもらうことにする。ここからは母と二人で富士をみた。 PM11:20 1回だけビクッとするので「来たか!」と構えるがフェイント。 ケージのドアを閉めようとすると「ナーーー」と怒る。みんなの顔を柵越しでなく、ちゃんと見たいのだろう。 夜中も交代で富士のそばに座る。富士はたまに起きては向きをかえ、フガフガッと息をして、人がいることを確認すると、またスヤスヤと眠った。 ★5月18日、火曜日。 さすがに AM9:00を過ぎると、まわりの音が気になってくる。マンションの手すりをたたくカーンという音や、カラスや、よくわからないうるさい鳥の声もする。キェーーキェーーと耳につく声だ。上の人の歩く音や人の声。それに耳で反応する富士。 AM10:00 日本医療の人が来て、酸素導入の機械を設置してくれた。 AM10:30 首がビクッとする。ちょっとあせる。 日中の富士は座る場所をよく替えるが寝ない。落ち着きがない。発作の前兆か?手順を再確認する。三毛猫桜華のそばへ座り呼吸を計ってみると、寝ている時で2秒に1回だった。これが正常なんだろう。 その後も富士は1時間に1〜2回起きては姿勢を変えて寝た。オシッコもジワジワとだが頻繁にしていた。1度、踏ん張るような感じで前足をのばして床にお尻をつけた。ウンチがしたいのに出ないのかも。 夜中、富士はつらいのかなかなか寝ない。人間の 39°ある時なんかと同じだろうか。それとも寝過ぎて眠れないのか。そんなことはないか。誰かが起きてるから、つきあってくれてるのか? PM11:00 大量オシッコ。うれしいうれしい。 ★5月19日、水曜日。 AM9:40 病院に電話。S先生より折電をもらう。 ● 鼻水・・・・・今まではちょっとした風邪でも平気だったものでも、体が弱ってくると悪化するから、体調不良かも。 ● よだれ・・・・・きもちが悪いと出る。尿毒が進んでいるのかもしれない。 AM10:40 落ち着きなく3回ほどくるくる回ったあとにオシッコをした。よかった〜。 が、その時歩き過ぎて心臓に負担がかかったのか、口を開けて苦しそうに息をしている。1秒3回ペース。あわてて酸素チューブを口元へ持っていくと 2〜3分で口を閉じ、呼吸も1秒2回ペースに持ち直した。・・・・どうなることかと思った。 AM11:30 また息が苦しくなった。1秒3回ペース。特に歩き回ったわけでもないのに、口をガバッと開いて目を見開いている。「今までにない苦しさです〜、なんとかしてください」といわんばかりに私を見つめる!これはまさしく緊急事態のため、速攻で病院に電話して往診をお願いする!母にも即電話! AM12:05 S先生と助手の男の子が来る。 S「千代ちゃんの腎臓は、もう早いペースではオシッコを作れないかもしれません。点滴の速度を 42mlから15ml/hに変えましょう。」 S「これで普通は 30分ぐらいでオシッコを作りはじめて、1時間くらいでオシッコがしたくなるんですけど、千代ちゃんはもう少し遅いかもしれないですね。あと、熱があるので冷やしてあげてください。保冷剤などをタオルで巻いて、背中に当てて、たまに位置を変えて下さい。こまめに体温を計り、38℃台になったらやめてください。」 利尿剤を2本置いていってもらうことにした。次は夕方 6:00、その次は夜中の12:00に点滴に入れてくださいとのこと。 PM1:00 母が帰ってくる。すでに号泣で「富士ぃぃぃ〜間に合わないかと思ったぁぁぁぁ〜!」と富士にすがりつく。 S「酸素導入の管ですけど、このままよりも人間の使う酸素マスクのように口にカパッとかぶせられるようにするほうが、より酸素を多く吸入できますよ」 富士は歩き回って、廊下の硬いフローリングの上に寝てしまった。 PM3:40 富士が歩いて部屋に入ってきたのでドアを閉めた。 PM4:30 富士は、もうケージには戻る気がないようだ。 富士のそばに座布団を置いて座った。 左手に病院で採血したときのコットンがテープで巻かれたままだったので取る。やはり無抵抗。いつもなら絶対おこるのにな。むくんでいるので、テープをはっていたところが、くっきり段差になっていた。 PM6:00 S先生に電話。 先生に言われたとおり、利尿剤を打って点滴の速度を 10ml/hに変えた。 PM10:00 小さいひきつけあり。 私はとっさに「がんばれ富士!」と言った。 そうだね、頑張らなくていいよね、富士。 PM10:20 富士は奇跡的に持ち直した。母と2人で息を飲んで見守りっぱなし。 PM10:45 廊下の空気がすずしいので、ドアを開けておいたら・・・富士がむくっと起きあがり「ナーーーーーーオ」とオタケビをあげながら廊下に歩いて行った!おいおいっと追いかける。点滴抜けちゃうよーっ!玄関でつかまえて両脇をかかえあげると・・・ ★5月20日、木曜日。 AM9:25 しょっちゅうピクピクしている。ずっと右を下にして寝ているが、顔もむくんでいるため、たまに顔を上げたとき正面から見ると、左右がかなり非対照だ。かわいそうだ・・・。 AM10:20 急に息が乱れて、呼吸が遅く大きくなり、3人で見守っていると、おしっこジョワ〜だった。 富士は相変わらず酸素マスクに自分からすっぽり頭をつっこみ、たまにピクッとしたり頭を上げたりしながらぐったりしている。手も足もパンパンだ。 AM11:15 また富士がピクッとしたと思ったら左手で私の左手の指をつかんだ。 もう会社を4日も休んでいる。家にも丸3日以上帰っていない。 PM2:10 呼吸は10秒に15回。たまに大きい呼吸をしお腹がグッと動く。 PM3:10 口を何度かペチャペチャする。つばが飲み込みたいけど、ねばねばで飲み込めない?とかそんな音?と妄想。 PM5:15 富士の息が乱れる。早くなったり遅くなったり。 「富士ちゃん」と言うと、しっぽをブルン。 鼻と口は酸素マスクにかくれていてわからないが、目だけはこっちを見ている。すっごい見てる。 富士の左足は、ライオンさんのようにむくむくして白く大きくなった。今までは4本の指が一体化していたのが、1本ずつが盛り上がって独立している。 PM6:10 またお口ペチャペチャを4回。お口が気持ち悪いみたいだ。 PM7:15 桜華がものすごくまとわりついてくる。みんなが富士にかかりっきりなので、ちょっとヤキモチか? PM8:30 寝息もほとんどたてずにぐっすり寝ている。呼吸は10秒10回。 酸素導入の機械の水が減ったので、精製水を足す。さすが MAXの毎分3リットルだと減りが早いのだ。 何も変わらず。富士はただただ、タンスの前で横になったままだ。たまに顔を上げて「居る?」と確認しては、また酸素マスクに顔を突っ込む・・・をくりかえす。 PM9:20 おくちペチャペチャを4回やる。そのあとちょっと息があがる。 AM2:10 待ちに待ったオシッコ〜!えらいぞ富士! 目がしっかりしているので、顔をあげるとかなりかわいい。このまま治って、水飲んだりご飯食べたりしてくれないかな〜。 AM3:30 ・・・父母ともに腰痛悪化・・・。 富士はたまに顔をあげ、「あれ?となりに居ないの?」と言う目で見るので、そのたびにそばに飛んでいって、なでなですると又眠った。 しかし富士はかわいいし頑張るな。 日中の富士はよく向きを変えた。富士が動くたびにオロオロしながら点滴の線と酸素マスクを整える人間。手と足が頻繁にピクピクするのが5分位続いた。頭も2度あげたが落ち着いた。もうドキドキしっぱなし。 人が見えなくて「居る?」としょっちゅう振り向く。疲れさせてしまうので、居ることがわかるように、こまめに背中をなでなでする。 PM5:10 突然歩き回ったと思ったら大量オシッコ! 「アーーーーオ、アーーーーオ、アーーーーーーオ」と何度も鳴くばかりで、酸素マスクに顔を入れない。覚悟は出来ているが、いざとなると泣いて取り乱すばかりで情けない。「富士、苦しいね、みんな居るから大丈夫だからね」と何度も泣きながら繰り返すだけだ。 PM6:20 呼吸は10秒12回ペース。だいぶ落ち着いてはきたが、たまにピクッとしたりゴホッといったりする。姿勢は全然変えてない。オシッコ後、タンスに寄りかかったきり1時間だ。 PM7:10 私の旦那がお見舞いにきた。富士を見たが、目は合ってないので富士は気付いていない。よかった。一通りの経過を話しながら冷やし中華を食べる。丸4日も家に帰ってないのに文句一つ言わずに富士と私の心配をしてくれた。本当にいい人だ。 PM7:50 旦那をバイク置き場に送ってから父と交代する。旦那がドリンク剤をごっそり買ってきてくれたので、ありがたくいただく。 今こう思うのもなんなんだが、富士のお世話は、本当に出来るだけのことを全部していると感じるので、悔いは残らないだろう。 この5日間、家族みんながそれぞれの生活や仕事を犠牲にして富士につくしてきたのだ。富士も横山家の一員であることを再確認出来たんじゃないだろうか。 PM10:25 富士ちゃん突然のオシッコ!うれしいやらあわてたやらで、父と二人で汗をかきかき、お世話をする。2回転ほどしたので体力消耗。 前回のトイレから5時間しかたってなかったのにエラかった!なんか回復してきているような気がして、お水とか飲み出すんじゃない?という感じがした。 PM11:30 急に呼吸困難みたいになる。どうした?富士? 「富士?どうしたの?苦しいね、苦しいね・・・!」 PM11:35 病院に電話。今の状況と鎮静剤の件を話す。T先生という富士の担当ではない先生が対応してくれた。 PM11:50 鎮静剤を打つ。 本人は少しは楽になったのか。意識もうろうだろう。 3人で話したが、このまま呼吸困難の苦しみが繰り返すようなら、反対派だけど・・・安楽死も考えてしまう・・・。 富士、ベロがちょっと出てきてますよ。 AM1:20 背骨が骨っぽく出てきた気がする。脂肪をエネルギーとして使っちゃったんだろうか。「富士ちゃん」と呼びかけるとしっぽブルンをした。聞こえてる。 AM2:00 富士がまた苦しみだす。 グッタリというより、ガクガクしている感じだ。 そうこう言っているうちにまた「アーーーーーーーオ」になった。 AM2:20 2本目の鎮静剤を打った。 さて、どうしよう。鎮静剤はもうない。 T「血液検査をしてみないとわかりませんが、おそらく腎不全が進行していると思われます。その場合、苦しみを取るのは血液をきれいにすること、つまり点滴なんですが、富士千代ちゃんの場合、それを先週の土曜日からやっているのに検査の値がよくなかったですよね。そうすると、もう鎮静剤しかないんですが・・・。もうちょっと時間をあけないといけないんですよ。少なくとも3〜4時間はあけて投与していただいてます。」 安楽死について聞くと・・・ 富「アーーーーーーーオ」 電話中にアーーオが始まってしまった!もう一刻の猶予もない!5秒でパジャマからジャージに着替える。 母「富士、富士!ひろこ待って!富士ちゃんおかしいよ!見て、口はパクパクしてるけど、空気が入っていってないよ!」 両手足も首も、ものすごい力で動かしまくって、のけぞったり、蹴飛ばしたりで、タオルをかぶせて二人で必死でおさえた。動くというよりも、飛び跳ねるという表現のほうが正しい。体を床にビタンビタンと打ち付ける。海からあげたてのマグロをおさえているような感じだ・・・! 母「パパ、ちょっと待って!病院待って!」 AM2:35 富士は天国へお引っ越しした。 《《 その後 》》 静かな夜が明けて、土曜日、私たちが困ることは何一つなかった。 富士を乗せて火葬場に向かう道は、大通りにもかかわらずやっぱり車がいなかった。 その後私と母は寝込んだが、土日なので仕事にも支障なし。 そして3ヶ月が経った。 「おーちゃん、おいで」と呼ぶと、テーブルでもベッドでもぴょんっと乗ってくる。時には膝の上に乗ることもある。 きっとこうして、私たちはいつまでも、富士と生きていくのだろう。 ひろびろさんにメール (★を@に書き換えて送信してください) |
葛西のご隠居様主催:猫の肖像画館 20階展示室で、優しい瞳の富士千代ちゃんに会えます♪ |