富士千代ちゃん伝説 Page2  written by ひろびろさん  

《《 最後の5日間の記録 》》
★5月17日、月曜日
13:30
 富士は自宅に帰ってきた。
富士はまだもうろうとしていたが、自宅に帰ってきたのがわかったらしく、「ダッコ〜」という感じでヨタヨタ歩く。その度に母や父がダッコをするが、縦の姿勢にすると息が荒くなるので、 10分程ダッコして落ち着いたらまた寝かす。横になっている方が、息が楽そうに聞こえるのだ。ダッコのほうが楽ならずっとしてあげられるのにね。

私は一度自分のアパートに帰り、着替えや必要な物をかばんにつめ、また戻ってきた。しばらくこっちで暮らそう。富士を見ながら、私は病院で教わった点滴の扱い方や痙攣発作の時の対応方法をまとめて紙にかき、部屋の壁に貼った。

PM6:40 富士ちゃんオシッコ。
落ち着きなく部屋の中を歩いていると思ったら、私の左足の上でジョォォォ〜。結構な量をしたのでホッとする。1分半ほどかけてシッコをし終わった途端に眠そうに目を細めたのでケージの中に横にすると眠りだした。体力温存だ、ゆっくり休め♪

静かに寝てるかと思うと、ハッハッハッハッハッ、フガッフガッフガッと息があらくなったりする。数えてみたら、 10秒で15回息をしていた。

PM10:30 3人交代で富士をみていたが父がそろそろ寝る時間なので交代。父は最近9:00〜10:00に寝て朝4:00に目が覚めるらしいので、朝5:00からみてもらうことにする。ここからは母と二人で富士をみた。

PM11:20 1回だけビクッとするので「来たか!」と構えるがフェイント。

ケージのドアを閉めようとすると「ナーーー」と怒る。みんなの顔を柵越しでなく、ちゃんと見たいのだろう。
無理もない、ずっと病院で心細い思いをしてきたのだ。今はおとなしいし、開けといてもいっか!ただ、朝の 9:00まで往診が出来ないので、発作が始まったら点滴の針がとれないようにしないとね、富士。

夜中も交代で富士のそばに座る。富士はたまに起きては向きをかえ、フガフガッと息をして、人がいることを確認すると、またスヤスヤと眠った。

たま〜に小さい明かりをつけて、富士が息をしているかどうか確認する。やっぱり連れて帰ってよかったよ。病院じゃ、絶対ここまでしてくれないからね。

★5月18日、火曜日
退院してから一度も痙攣してないし、ゲロもない。やっぱり病院はストレスだったのかなーと思う。富士はケージの外には出ようとしない。ケージの床に敷き詰めてあるペットシートをさわったら濡れていたので一人でオシッコをしたようだ。

さすがに AM9:00を過ぎると、まわりの音が気になってくる。マンションの手すりをたたくカーンという音や、カラスや、よくわからないうるさい鳥の声もする。キェーーキェーーと耳につく声だ。上の人の歩く音や人の声。それに耳で反応する富士。
どの音がきっかけで痙攣がおこるかわからない。最期のとき、私は富士がこわがらないようしっかり支えてあげることが出来るだろうか。

AM10:00 日本医療の人が来て、酸素導入の機械を設置してくれた。
細心の注意を払い、小声で設置したものの、富士はびっくりして目まんまるで、ギャ〜〜オ、ギャ〜〜オ。 10分そこそこで帰ってようやく落ち着く。しかしこの機械、設定を変えるごとにいちいちしゃべるのだ。女の人の声で「2Lに設定されました」とか。見りゃわかります。いちいち言わなくてもいいですから。

AM10:30 首がビクッとする。ちょっとあせる。

富士が動くたびに、チャンスとばかりペットシートを替える。少しずつ垂れ流しているようだ。食べてくれれば筋力も出てくるのだが、なんせ「キョーミナシ」といった感じ。
水・おだし・おかか・なんにも反応なしだ。

日中の富士は座る場所をよく替えるが寝ない。落ち着きがない。発作の前兆か?手順を再確認する。三毛猫桜華のそばへ座り呼吸を計ってみると、寝ている時で2秒に1回だった。これが正常なんだろう。

その後も富士は1時間に1〜2回起きては姿勢を変えて寝た。オシッコもジワジワとだが頻繁にしていた。1度、踏ん張るような感じで前足をのばして床にお尻をつけた。ウンチがしたいのに出ないのかも。

夜中、富士はつらいのかなかなか寝ない。人間の 39°ある時なんかと同じだろうか。それとも寝過ぎて眠れないのか。そんなことはないか。誰かが起きてるから、つきあってくれてるのか?
もしそうなら困った。猫語が通じないし。

PM11:00 大量オシッコ。うれしいうれしい。

★5月19日、水曜日
今日は会社をさぼった姉と2人で看病だ。
富士は今朝から水のような鼻水と、透明のよだれが出ている。

AM9:40 病院に電話。S先生より折電をもらう。
● 点滴の針について・・・・・二の腕が腫れてびよーんとしたりむくんでいたら取り替えが必要だが、針自体は1週間くらいは余裕でもつ。量も 42ml/hのままでOK。

● 鼻水・・・・・今まではちょっとした風邪でも平気だったものでも、体が弱ってくると悪化するから、体調不良かも。

● よだれ・・・・・きもちが悪いと出る。尿毒が進んでいるのかもしれない。

AM10:40 落ち着きなく3回ほどくるくる回ったあとにオシッコをした。よかった〜。

が、その時歩き過ぎて心臓に負担がかかったのか、口を開けて苦しそうに息をしている。1秒3回ペース。あわてて酸素チューブを口元へ持っていくと 2〜3分で口を閉じ、呼吸も1秒2回ペースに持ち直した。・・・・どうなることかと思った。
母が帰ってくるまでは、なんとか頑張ろうね、富士!

AM11:30 また息が苦しくなった。1秒3回ペース。特に歩き回ったわけでもないのに、口をガバッと開いて目を見開いている。「今までにない苦しさです〜、なんとかしてください」といわんばかりに私を見つめる!これはまさしく緊急事態のため、速攻で病院に電話して往診をお願いする!母にも即電話!

AM12:05 S先生と助手の男の子が来る。
すぐに富士をケージから部屋の床に移動し、聴診器をあてる。
熱 40.5℃。お熱がある!ハァハァと苦しそうにしているのはお熱があったからかもしれないとのこと。その上むくみがひどい。

S「千代ちゃんの腎臓は、もう早いペースではオシッコを作れないかもしれません。点滴の速度を 42mlから15ml/hに変えましょう。」
富士のむくみはかなり進行していて、お腹の脇もびろんびろんのブヨンブヨン、腕もお尻もブヨンブヨンとのこと。先生も一瞬点滴の液漏れかと間違ったくらい腕が太くなっていた。利尿剤を打ってもらう。

S「これで普通は 30分ぐらいでオシッコを作りはじめて、1時間くらいでオシッコがしたくなるんですけど、千代ちゃんはもう少し遅いかもしれないですね。あと、熱があるので冷やしてあげてください。保冷剤などをタオルで巻いて、背中に当てて、たまに位置を変えて下さい。こまめに体温を計り、38℃台になったらやめてください。」

利尿剤を2本置いていってもらうことにした。次は夕方 6:00、その次は夜中の12:00に点滴に入れてくださいとのこと。

PM1:00 母が帰ってくる。すでに号泣で「富士ぃぃぃ〜間に合わないかと思ったぁぁぁぁ〜!」と富士にすがりつく。

S「酸素導入の管ですけど、このままよりも人間の使う酸素マスクのように口にカパッとかぶせられるようにするほうが、より酸素を多く吸入できますよ」
なるほどなるほど、言われてみればそうだ。姉が台所から小さなじょうごを持ってきてくれたので、酸素の管にガムテープで固定した。ちょうど富士の顔にぴったりのサイズだ。
S「ただ、猫ちゃんは顔の近くになにかを持ってこられるのをいやがりますから、ま、顔の近くに置いておけばいいと思います。」

富士は歩き回って、廊下の硬いフローリングの上に寝てしまった。
S「猫ちゃんはね、熱があって具合が悪いと、人間はタオルの上に寝てほしいのに、冷たい床に行きたがっちゃう子が多いんですよ。」
とのこと。富士のやりたいようにやらせてあげよう。

PM3:40 富士が歩いて部屋に入ってきたのでドアを閉めた。

PM4:30 富士は、もうケージには戻る気がないようだ。
それならそれでいい。部屋の中なら酸素導入の管の長さがギリギリ大丈夫だ。

富士のそばに座布団を置いて座った。
富士は酸素マスクをあてて、うつらうつらしている。いつもの箱座りではなく、右を下にしてだらっと寝ている。あまり力もなさそうだ。でも無駄な体力を使うよりは休んでくれたほうがいい。息があがらないだけでも、苦しみは減るだろう。

左手に病院で採血したときのコットンがテープで巻かれたままだったので取る。やはり無抵抗。いつもなら絶対おこるのにな。むくんでいるので、テープをはっていたところが、くっきり段差になっていた。
真上から見るとまさに楕円形。巨大キウイみたいだ。
もうオシッコが作れないのかなぁ・・・。

PM6:00 S先生に電話。
ひ「未だオシッコが出てないので、利尿剤が効いてないかも。それでも打ったほうがいいですか?」
S「打って下さい。千代ちゃんは我慢してためこむほうだから、していないだけでオシッコが作られてるかもしれません。」
ひ「全身がぶよんぶよんのベロンベロンだが、点滴は 15ml/hのままでいいですか?」
S「 10ml/hまでなら下げてもいいです。それくらいなら、入ってるか入ってないか位の量なんで、苦しくないと思います。」

先生に言われたとおり、利尿剤を打って点滴の速度を 10ml/hに変えた。
富士は静かにぐっすり眠っている。ハァハァも言っていない。酸素マスクが効いているのだろうか。

PM10:00 小さいひきつけあり。
左手、左足、耳、ほっぺたなどが、びくっ、びくびくっ・・・と動き始める。とうとうか、と覚悟を決めて母と二人で息を飲んで見守っていると・・・、急に顔を上げて「ガハッ・・・ハッハッハッ、ガハーーーッ」と呼吸困難のようになった!

私はとっさに「がんばれ富士!」と言った。
しかし母は「がんばらなくていいよ、富士。この3日ずっとみさせてもらったもんね、今まであまり長い時間一緒に居られなかったけど、丸3日一緒にいさせてくれてありがとうね。この家に来てくれてありがとうね富士。もう、苦しいの我慢して頑張らなくていいよぉぉ・・・」と号泣。

そうだね、頑張らなくていいよね、富士。
こんなに頑張ってきたのに、これ以上何を頑張るんだ。私は富士になにを求めているのだろう。富士は苦しむ為に生きているわけじゃない。

PM10:20 富士は奇跡的に持ち直した。母と2人で息を飲んで見守りっぱなし。
ドアの向こうではただごとならぬ雰囲気を察した桜華が3回ゲロ。

PM10:45 廊下の空気がすずしいので、ドアを開けておいたら・・・富士がむくっと起きあがり「ナーーーーーーオ」とオタケビをあげながら廊下に歩いて行った!おいおいっと追いかける。点滴抜けちゃうよーっ!玄関でつかまえて両脇をかかえあげると・・・
念願の大量オシッコだった。ありがとう。

★5月20日、木曜日
富士は全然姿勢を変えない。寝返りをうたせたほうがいいのか?それとも、動かすと息がきれるか・・・悩みどころだ。

AM9:25 しょっちゅうピクピクしている。ずっと右を下にして寝ているが、顔もむくんでいるため、たまに顔を上げたとき正面から見ると、左右がかなり非対照だ。かわいそうだ・・・。

AM10:20 急に息が乱れて、呼吸が遅く大きくなり、3人で見守っていると、おしっこジョワ〜だった。
オシッコを出すためにお腹の筋肉を使って、呼吸が乱れてしまったようだ。まぁまぁ大量。えらいえらい。富士は、また疲れ切って寝てしまった。

富士は相変わらず酸素マスクに自分からすっぽり頭をつっこみ、たまにピクッとしたり頭を上げたりしながらぐったりしている。手も足もパンパンだ。

AM11:15 また富士がピクッとしたと思ったら左手で私の左手の指をつかんだ。
あら、手をにぎってくれたのかしら?
うれしいけど、ただでさえ熱い肉球がさらに熱をもってしまうため、ゆっくり離そうとした。すると、ギュッと爪を立てて強くにぎってくれた・・・。
あぁっ、よろこび。しばらく手をつないでいよう。

もう会社を4日も休んでいる。家にも丸3日以上帰っていない。
わたし、大丈夫なんでしょうか・・・とも思うが、今回ばかりは悔いを残さないため、富士のそばにいよう!
ちなみに父も母も休みまくりの早退しまくり。みんなやけくそだ。

PM2:10 呼吸は10秒に15回。たまに大きい呼吸をしお腹がグッと動く。

PM3:10 口を何度かペチャペチャする。つばが飲み込みたいけど、ねばねばで飲み込めない?とかそんな音?と妄想。
10秒おきくらいで、4回ペチャペチャした。

PM5:15 富士の息が乱れる。早くなったり遅くなったり。
口は酸素マスクに突っ込んだまま、「ム・・・ム・・・ム・・・」と声を出して息をする。

「富士ちゃん」と言うと、しっぽをブルン。
「ここにいるよ」と言うと、またしっぽをブルン。
問いかければ 100%しっぽで答えてくれる富士。
耳はまだよく聞こえているようだ。

鼻と口は酸素マスクにかくれていてわからないが、目だけはこっちを見ている。すっごい見てる。
なでなですると少し前を向いて目を細めるが、手を離すと又こっちを見る。不安なんだろう。しっかり支えてやらねば。

富士の左足は、ライオンさんのようにむくむくして白く大きくなった。今までは4本の指が一体化していたのが、1本ずつが盛り上がって独立している。

PM6:10 またお口ペチャペチャを4回。お口が気持ち悪いみたいだ。

PM7:15 桜華がものすごくまとわりついてくる。みんなが富士にかかりっきりなので、ちょっとヤキモチか?

PM8:30 寝息もほとんどたてずにぐっすり寝ている。呼吸は10秒10回。

酸素導入の機械の水が減ったので、精製水を足す。さすが MAXの毎分3リットルだと減りが早いのだ。

何も変わらず。富士はただただ、タンスの前で横になったままだ。たまに顔を上げて「居る?」と確認しては、また酸素マスクに顔を突っ込む・・・をくりかえす。

PM9:20 おくちペチャペチャを4回やる。そのあとちょっと息があがる。

AM2:10 待ちに待ったオシッコ〜!えらいぞ富士!
結構な量でうれしいことだ!少しは内蔵の負担も減ったかな?
まだ息切れ中の富士だが、ゆっくり眠れるといいね。

目がしっかりしているので、顔をあげるとかなりかわいい。このまま治って、水飲んだりご飯食べたりしてくれないかな〜。

AM3:30 ・・・父母ともに腰痛悪化・・・。
やっぱりフローリングの上にペロンと一枚座布団を敷いて、その上でじっとしているのは、正直私でもきつい。クッションのいい座椅子を持ってくればぐっと違う!と考え、思い切って真夜中の模様替えを始めた。
しずかにぃ〜、しずかにぃ〜、とドア付近の物をどかしてスペースをつくり、座椅子をセットして、点滴の管と酸素のチューブを安全に配置するので 30分かかった。

富士はたまに顔をあげ、「あれ?となりに居ないの?」と言う目で見るので、そのたびにそばに飛んでいって、なでなですると又眠った。

★ 5月21日、金曜日
富士の様子は昨日と変わらずで、呼吸は 10秒10〜12回。たまに自分で向きを変えた。

しかし富士はかわいいし頑張るな。
たまに「居る?」というように顔をあげて確認するが、目が合うとまた酸素マスクに戻る。そのときの顔ったら。
富士ってこんなに童顔だったっけな。赤ちゃんみたいな顔だ。
その上、夜暗い時は瞳孔が開いてよけい黒目が大きくなる。そのまんまる目で見つめられるんだから、たまらなくかわいい。

日中の富士はよく向きを変えた。富士が動くたびにオロオロしながら点滴の線と酸素マスクを整える人間。手と足が頻繁にピクピクするのが5分位続いた。頭も2度あげたが落ち着いた。もうドキドキしっぱなし。
ちょっと立ち上がっただけでも、ハァハァいう。もう体力がないのだろう。

人が見えなくて「居る?」としょっちゅう振り向く。疲れさせてしまうので、居ることがわかるように、こまめに背中をなでなでする。

PM5:10 突然歩き回ったと思ったら大量オシッコ!
よかったよかったと言ってるヒマもなく、ぐるぐると3回転し呼吸困難に。口をガバッと開ききってハァハァハァハァ、ガハッガハッ、ガハッガハッ・・・が止まらない。
すぐに父と母を呼び、みんなでペットシートの取り替えと酸素マスクと点滴のお世話をするが、富士の動悸がなかなかおさまらない。

「アーーーーオ、アーーーーオ、アーーーーーーオ」と何度も鳴くばかりで、酸素マスクに顔を入れない。覚悟は出来ているが、いざとなると泣いて取り乱すばかりで情けない。「富士、苦しいね、みんな居るから大丈夫だからね」と何度も泣きながら繰り返すだけだ。
しかし頑張り屋の富士はあきらめないのだ。5分位でようやく少し落ち着きだした。呼吸は 10秒20回ペース。
かなり歩いたので、相当体力を消耗したはずだ。

PM6:20 呼吸は10秒12回ペース。だいぶ落ち着いてはきたが、たまにピクッとしたりゴホッといったりする。姿勢は全然変えてない。オシッコ後、タンスに寄りかかったきり1時間だ。

PM7:10 私の旦那がお見舞いにきた。富士を見たが、目は合ってないので富士は気付いていない。よかった。一通りの経過を話しながら冷やし中華を食べる。丸4日も家に帰ってないのに文句一つ言わずに富士と私の心配をしてくれた。本当にいい人だ。

PM7:50 旦那をバイク置き場に送ってから父と交代する。旦那がドリンク剤をごっそり買ってきてくれたので、ありがたくいただく。

今こう思うのもなんなんだが、富士のお世話は、本当に出来るだけのことを全部していると感じるので、悔いは残らないだろう。
もしこれで会社をクビになっても晴れ晴れとした気持ちだろう。
富士を退院させてよかった。正直5日も生きてくれると思わなかった。富士も退院したことで、ストレスがぐっと減ったんじゃないか。病院に残してきたら、きっと寂しくてその日のうちに死んでしまっていただろう。

この5日間、家族みんながそれぞれの生活や仕事を犠牲にして富士につくしてきたのだ。富士も横山家の一員であることを再確認出来たんじゃないだろうか。
同じ病気の苦しみの中でも、さみしい病院と、つねに誰かが隣にいる家とでは、富士にとって天国と地獄ほどの差があるんではないだろうか。

PM10:25 富士ちゃん突然のオシッコ!うれしいやらあわてたやらで、父と二人で汗をかきかき、お世話をする。2回転ほどしたので体力消耗。

前回のトイレから5時間しかたってなかったのにエラかった!なんか回復してきているような気がして、お水とか飲み出すんじゃない?という感じがした。
しかし、それは私の妄想だった。富士のその時は確実に近づいていた。

PM11:30 急に呼吸困難みたいになる。どうした?富士?
立ち上がって、吐きたそうな、でも何も吐く物がないような感じで、何度も「アオッ、オエッ、アオッ」が続く。

「富士?どうしたの?苦しいね、苦しいね・・・!」
苦しそうなので鎮静剤か?でも打っていいのかわからない!

PM11:35 病院に電話。今の状況と鎮静剤の件を話す。T先生という富士の担当ではない先生が対応してくれた。
T「退院時にお渡しした鎮静剤は、痙攣発作用というわけではありません。苦しみをやわらげるために打つならOKです。その鎮静剤は、病院で使うものよりも量が少なめになっているし、それが原因でショックで死に至ることはごくまれです。」

PM11:50 鎮静剤を打つ。
一瞬「もしこれで体力のない富士に効きすぎて、そのせいでショックで死んじゃったらどうしよう!」とも思ったが、父と母の「本人が苦しい時間を減らしてあげないと!」の言葉で納得。しばらく3人で見守るが、薬が効いてきたように見える。少なくとも吐きたそうな声はなくなった。

本人は少しは楽になったのか。意識もうろうだろう。

3人で話したが、このまま呼吸困難の苦しみが繰り返すようなら、反対派だけど・・・安楽死も考えてしまう・・・。
体力の続く限りもがき苦しむなんてあんまりだ。
“動物には生存本能があるから、苦しくても生きようとする。だから、安楽死は人間のエゴだ。動物の苦しむ姿を人間が見たくないだけだ”という説もあるが、それはどんな場合でも当てはまるとは言えないんじゃないだろうか。
富士がしゃべれるなら聞いてみたい・・・。
次、もし発作がおきて、2本目の鎮静剤を使い終わったら、病院に相談してみよう。

富士、ベロがちょっと出てきてますよ。
月曜日の朝も出てたから、きっと鎮静剤のせいだ。富士を床の上からバスタオルの上に移動。1時間交代で見ることにする。

AM1:20 背骨が骨っぽく出てきた気がする。脂肪をエネルギーとして使っちゃったんだろうか。「富士ちゃん」と呼びかけるとしっぽブルンをした。聞こえてる。

AM2:00 富士がまた苦しみだす。
「アーーーーオ、アーーーーオ」になった。鎮静剤の量は医師が使う物より少なめとは言っていたが、それにしても1本目打ってからまだ2時間しか経っていない。
父「ちょっと早いんじゃないか。もう少し様子を見よう。」
どうしよう、どうしよう、とオロオロしている間に鳴き声がおさまり、寝る・・・というか倒れる。

グッタリというより、ガクガクしている感じだ。
目を見開いたまま苦しそうにしているので見てられない!
ひ「ねぇ、どうする?苦しそうだよ。注射した方がいい?」
母「でも、2時間しか間おかなくていいの?」
ひ「わかんないよぉ。でも苦しそうだよ、富士」
とオロオロ、オロオロするばかり。あぁ、どうしよう?富士!

そうこう言っているうちにまた「アーーーーーーーオ」になった。
もうヨタヨタで苦しがっているため決断。

AM2:20 2本目の鎮静剤を打った。

さて、どうしよう。鎮静剤はもうない。
今は夜中で、往診は朝の 10時から。通院は9時から。まだ7時間弱もある。次呼吸困難になっても助けてあげられない。
往診はなくても、取りに行けば鎮静剤をくれるんじゃないか?という話しになり、すぐに病院に電話。さっきのT先生が対応。

T「血液検査をしてみないとわかりませんが、おそらく腎不全が進行していると思われます。その場合、苦しみを取るのは血液をきれいにすること、つまり点滴なんですが、富士千代ちゃんの場合、それを先週の土曜日からやっているのに検査の値がよくなかったですよね。そうすると、もう鎮静剤しかないんですが・・・。もうちょっと時間をあけないといけないんですよ。少なくとも3〜4時間はあけて投与していただいてます。」

安楽死について聞くと・・・
T「・・・えぇ、相談にはのっています。このまま一晩様子をみて、富士千代ちゃんの苦しみがとれないようなら、朝に担当のS先生に相談してみるのも一つの考えだと思います。」

富「アーーーーーーーオ」
ひ「とととりあえず鎮静剤がほしいです。何本頂けますか」
T「では、3〜4本用意します。」
ひ「わかりました!今すぐ取りに行きますから、 20〜30分で着きますから!よろしくお願いします!!」
富「アーーーーーーーーーーーオ」

電話中にアーーオが始まってしまった!もう一刻の猶予もない!5秒でパジャマからジャージに着替える。
ひ「取りに行けばくれるって!行って来るから!」
と、出かけようとした時、富士の様態がものすごく悪化!

母「富士、富士!ひろこ待って!富士ちゃんおかしいよ!見て、口はパクパクしてるけど、空気が入っていってないよ!」
ひ「富士!富士!富士ーーーっ!!」
父「もう、すごく末期な感じだよ。猫は死ぬ間際にものすごく暴れて飛び跳ねるから、みんなでおさえて。一人の力じゃ無理だから二人で。押さえないと猫の苦しみが増えるからね。薬は僕が取りに行って来るから!」

父は子供の頃に、4匹猫をみとっている。その父が言うのだから間違いないのだろう。
私と母でバスタオルを用意した
そして、用意した途端、それははじまった。
それはもう、ものすごい暴れかただった。これが本当に富士なのか!?

両手足も首も、ものすごい力で動かしまくって、のけぞったり、蹴飛ばしたりで、タオルをかぶせて二人で必死でおさえた。動くというよりも、飛び跳ねるという表現のほうが正しい。体を床にビタンビタンと打ち付ける。海からあげたてのマグロをおさえているような感じだ・・・!

母「パパ、ちょっと待って!病院待って!」
ひ「すごいことになってる!!」
そしてそれは、2分くらい続いていたように思う。

AM2:35 富士は天国へお引っ越しした。

《《 その後 》》
富士はえらいな。
全部お見通しで、全部自分で用意してお引っ越しをするなんて。

静かな夜が明けて、土曜日、私たちが困ることは何一つなかった。
火葬の予約の電話をすると、午後 2:00に一つだけ空きがあり、すんなり予約することができた。
花屋に行けば、きれいな花がそろっていた。

富士を乗せて火葬場に向かう道は、大通りにもかかわらずやっぱり車がいなかった。
富士に最期のお別れをしてロビーで待つあいだは、いろんなノラ猫がひっきりなしにやってきて、私たちをなごませてくれた。

その後私と母は寝込んだが、土日なので仕事にも支障なし。
最期の最期まで、家族思いのいい猫だ。

そして3ヶ月が経った。
富士はたまに私たちに会いにやって来る。三毛桜華に乗り移るのだ。
いつもは高飛車で女王様気取りの桜華だが、富士が天国に行ってから、たまに甘えん坊になる時があるのだ。

「おーちゃん、おいで」と呼ぶと、テーブルでもベッドでもぴょんっと乗ってくる。時には膝の上に乗ることもある。
「おっ、富士が乗り移ってるな〜」と背中をなでる。体を触られるのが大っきらいな桜華も、富士が乗り移っている間はゴロゴロとのどをならしてお腹を見せる。

きっとこうして、私たちはいつまでも、富士と生きていくのだろう。

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葛西のご隠居様主催:猫の肖像画館 20階展示室で、優しい瞳の富士千代ちゃんに会えます♪

 


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